2009年2月15日日曜日

Meatless Bone

2009年度の注目材料の一つとして2008年度までで大きく痛んだヘッジファンド業界の動向があります。

私も個人的に結構関与していたりする部分なのですが、ヘッジファンド業界は80年代を勃興期とし、90年代に飛躍的拡大を見せて2000年~2006年にバブル崩壊前の(今思えばですが)加速度的な繁栄を見せた後に2007年のサブプライム問題の表面化、2008年のWall街型ビジネスモデルの崩壊を経て急激に縮小したという経緯があります。

ファンド業界のRevenue構成は最大公約数的に説明すると、一般に"2/20"と呼ばれる手数料に依存しています。預かり資産の2%を管理費として、年間の資産増加分の20%を成功報酬として受け取ると言う仕組みです。例えば$100mio(1億ドル)の資産の運用を依頼した場合は、その時点で2%に当たる$2mio(2億円弱)を吸い取られ、年間でファンドが10%の運用実績が上がったとすると年明けにその20%に当たる部分の2%($98mio×10%×2%=$1.96mio、これも約2億円弱)を持っていかれる事になります。

投資家にしてみれば、安全資産である米国政府債に投資したり、特別な知識や分析能力を必要としない株式市場のインデックスに投資する場合と比較したいところですが、例えば株のインデックスが年間12%上昇で、運用を依頼したヘッジファンドの実績が9%だったとしても、この9%のうちの20%は成功報酬として持っていかれる訳です。

ここは割り切ってインデックス投資などに徹する投資家もいますが、多くの投資家は大手ヘッジファンド等が時折見せる年間40%等という花火に魅せられるのと、オルタナティブ投資(代替投資)と呼ばれるような信用市場や新興国不動産市場などの自分ではなかなか情報もチャネルも無いので入って行けない分野への投資をしたくてヘッジファンドとの付き合いを続けて来た所が多いのです。

この状態がおかしくなったのが2007年で2008年度は壊滅的な打撃を蒙ったという状況で、あるデータによれば既に多くのファンドが消滅した現在でも残存するファンドの約80%は2008年度の実績がマイナスであった為に上記のスキームの中の20%の成功報酬という部分がゼロで、2009年度は2%の管理手数料のみで運営していかなくてはならない状態だと推測されています。しかも預かり資産が激減している事も明白なので2%の管理手数料と言っても非常に苦しい台所事情である事は間違いありません。

2009年度の金融市場は、中心となる株式市場や為替市場を中心に所謂" Buy the rumor,Sell the fact"或いは、"Buy into the rumor, Sell into the fact"等と言われる足早な展開が目を引くのですが、これは一つの注目イベントに向けて一つの潮流が出来上がるものの、実際にイベントに突入する直前からイベント後にはそれまでの動きがあっさりと反転するパターンが目立ちます。中にはイベントの結果が注文通りだったり予想以上の物だったとしてもトレンドが走らないというケースも目立つのです。

私はこれは注目していた2009年度のヘッジファンド勢の動向とリンクしている可能性が高いと確信しています。ある程度のことは見ていてもわかるのですが、多くの主要ファンドの動きのイメージとしては以下のような印象を持ちます。

1 やや意外な感はありますが、リスク量自体はあまり落としていない。

2 しかしリスクの保有期間は明らかに短縮しているように見える。

Risk Exposure = Risk量 × 保有期間(時間) と定義するとすれば、Exposure自体は減少させて慎重な運営をしているものの、内容的にはRisk量ではなく保有期間というファクターで調整してきていると言う印象を持ちます。

イベントに向けた思惑相場でポジションを取り、注文通りの内容であればポジションを積み増すという従来のような動きは今の体力や環境ではし難いという背景もあるでしょうし、資金を引き上げずに2009年度も運用を任せている投資家の多く、特に機関投資家などからは手堅い運用を強く望むと言う要望が寄せられている可能性も高いので無理も無いという気もします。

先週初はガイトナー新財務長官から発表された金融安定化策の発表後に、それまでは期待先行で買い進まれていた株式市場が反落し、為替市場は週央に円高に流れがぶれました。その後は週末のG7会合や米国の歳出で約5000億ドル、減税で約2870億ドル、合計で約7870億ドルという未曾有の景気対策への期待感から再び株式市場が盛り返して為替も円安となっているのですが、週明けの市場動向には一定の注意が必要だと思います。

ところで、ガイトナー財務長官の発表した金融安定化策への失望感から株式市場が反落した際に米国の複数のメディアが具体性にかけるという解説をするのに、Meatless Bone という言葉を使用していました。骨組みだけで肉がない(具体性が無い)という表現ですが、これは昔日本のCMでやっていたBoneless Ham の反対みたいで面白いと思いました。小手先の施策ばかりでベースとなるコンセプトが見えないような時に、Boneless Meat なんて書いたら意味は通じるのでしょうかね。

そう言えば、在米時代に、Spineless Jellyfish という表現に遭遇したことがあります。知人A(米国人)が知人B(日本人)に発した言葉でした。クラゲ(jellyfish)には元々脊椎(spine)は無いのですが、敢えて"骨なし"(spineless)とする事で侮辱の意を強めた表現であった訳ですね。

相場も人間関係も本当に難しいものです。当局と金融市場の関係も然り。G7声明や米国の大型景気対策を金融市場はどういう評価を下すのでしょうか。

Spring Storm Has Come.

先週の金曜日は帰宅時に結構な強風に煽られました。

週末の間に、あれが春一番だったと言う報道を見ましたが、確かに週末の間も気温は温暖でしたね。


そのせいもあってか、花粉が猛威を振るい始めているのを身をもって感じているのですが、この週末も外出が多かったせいか目は痒く、鼻水は垂れてくるという悲しい状況になっています。これを書きながらキーボードに涙や鼻水がこぼれない様に注意している有り様です。


以前も似たような事を書いた記憶がありますが、この花粉が猛威を振るう昨今の状況と現状の世界経済の状況には共通点があります。


小さいながらもそこそこ東西南北に広い日本列島には、各地の気候に適した植物分布が在ったのですが、林業振興目的などで地域に適した森林を伐採して国内外に需要のある杉を日本中に植林する政策が進められました。


杉にも順応性はありますので暫くは何とかなったのでしょうが、その後の林業不振で徐々に手入れが滞るようになり山や森林が荒れ始めると、元々気候の合わない所にも植林されてきた杉林が悲鳴をあげるようになって来ました。更に酸性雨や地球温暖化なども拍車をかけて日本中の山の杉林が存亡の危機に立たされているようです。


存亡の危機にある杉の木々が子孫を残すべく異常な量で精子(=花粉)を撒き散らしていると言うのが今の日本の状況の一側面であるそうです。


これは欧米型の金融経済の成功を杉に、世界を日本の山々と置き換えれば過去10年ほどの間のGlobalizationの経緯によく似ていると思います。


元々世界中には地域性や風土、宗教、民族性などに根ざした政治経済の分布が在ったわけですが、欧米型の金融経済の成功と繁栄は世界中から需要され、輸出もされててきました。


あたかもWall街の地平線が世界に拡大していくようなパラダイムは世界経済を新境地に導くかとも思われた時期がありますが、中心となる米国・欧州の経済の縮小開始が確認された今となっては、世界中の中途半端な欧米化は置き去りにされた杉林状態となり一時は雪崩の如く流入してきた資本を花粉の如く吐き出し、世界中の政治、金融当局に大きな課題を突きつけているのです。


この動きにどう歯止めをかけて、どのように事後処理をつけていくのかが問われた週末のG7会合はこれまた総花的な声明文を出すのが精一杯だったように見えます。


週明けは北米市場が休場ですので落ち着いた展開が予想されますが、火曜日以降は今回のG7声明等に対する金融市場の評価が突きつけられる展開が予想されます。


個人的には株式市場がかなり危険な状態にあると感じているのですが、小規模な反発を消化しながら着実に下値を切り下げていく展開を予想しており、債券市場や為替市場も株式市場を中心に展開していく流れを予想しています。


春一番が告げるものは、Risk Aversion なのか Risk Appetite なのか。


2月後半の金融市場を注意深く見ていく事に致しましょう。 そう、涙目で・・・・

(小春日和に野良猫もこの通り・・)