2009年度の注目材料の一つとして2008年度までで大きく痛んだヘッジファンド業界の動向があります。
私も個人的に結構関与していたりする部分なのですが、ヘッジファンド業界は80年代を勃興期とし、90年代に飛躍的拡大を見せて2000年~2006年にバブル崩壊前の(今思えばですが)加速度的な繁栄を見せた後に2007年のサブプライム問題の表面化、2008年のWall街型ビジネスモデルの崩壊を経て急激に縮小したという経緯があります。
ファンド業界のRevenue構成は最大公約数的に説明すると、一般に"2/20"と呼ばれる手数料に依存しています。預かり資産の2%を管理費として、年間の資産増加分の20%を成功報酬として受け取ると言う仕組みです。例えば$100mio(1億ドル)の資産の運用を依頼した場合は、その時点で2%に当たる$2mio(2億円弱)を吸い取られ、年間でファンドが10%の運用実績が上がったとすると年明けにその20%に当たる部分の2%($98mio×10%×2%=$1.96mio、これも約2億円弱)を持っていかれる事になります。
投資家にしてみれば、安全資産である米国政府債に投資したり、特別な知識や分析能力を必要としない株式市場のインデックスに投資する場合と比較したいところですが、例えば株のインデックスが年間12%上昇で、運用を依頼したヘッジファンドの実績が9%だったとしても、この9%のうちの20%は成功報酬として持っていかれる訳です。
ここは割り切ってインデックス投資などに徹する投資家もいますが、多くの投資家は大手ヘッジファンド等が時折見せる年間40%等という花火に魅せられるのと、オルタナティブ投資(代替投資)と呼ばれるような信用市場や新興国不動産市場などの自分ではなかなか情報もチャネルも無いので入って行けない分野への投資をしたくてヘッジファンドとの付き合いを続けて来た所が多いのです。
この状態がおかしくなったのが2007年で2008年度は壊滅的な打撃を蒙ったという状況で、あるデータによれば既に多くのファンドが消滅した現在でも残存するファンドの約80%は2008年度の実績がマイナスであった為に上記のスキームの中の20%の成功報酬という部分がゼロで、2009年度は2%の管理手数料のみで運営していかなくてはならない状態だと推測されています。しかも預かり資産が激減している事も明白なので2%の管理手数料と言っても非常に苦しい台所事情である事は間違いありません。
2009年度の金融市場は、中心となる株式市場や為替市場を中心に所謂" Buy the rumor,Sell the fact"或いは、"Buy into the rumor, Sell into the fact"等と言われる足早な展開が目を引くのですが、これは一つの注目イベントに向けて一つの潮流が出来上がるものの、実際にイベントに突入する直前からイベント後にはそれまでの動きがあっさりと反転するパターンが目立ちます。中にはイベントの結果が注文通りだったり予想以上の物だったとしてもトレンドが走らないというケースも目立つのです。
私はこれは注目していた2009年度のヘッジファンド勢の動向とリンクしている可能性が高いと確信しています。ある程度のことは見ていてもわかるのですが、多くの主要ファンドの動きのイメージとしては以下のような印象を持ちます。
1 やや意外な感はありますが、リスク量自体はあまり落としていない。
2 しかしリスクの保有期間は明らかに短縮しているように見える。
Risk Exposure = Risk量 × 保有期間(時間) と定義するとすれば、Exposure自体は減少させて慎重な運営をしているものの、内容的にはRisk量ではなく保有期間というファクターで調整してきていると言う印象を持ちます。
イベントに向けた思惑相場でポジションを取り、注文通りの内容であればポジションを積み増すという従来のような動きは今の体力や環境ではし難いという背景もあるでしょうし、資金を引き上げずに2009年度も運用を任せている投資家の多く、特に機関投資家などからは手堅い運用を強く望むと言う要望が寄せられている可能性も高いので無理も無いという気もします。
先週初はガイトナー新財務長官から発表された金融安定化策の発表後に、それまでは期待先行で買い進まれていた株式市場が反落し、為替市場は週央に円高に流れがぶれました。その後は週末のG7会合や米国の歳出で約5000億ドル、減税で約2870億ドル、合計で約7870億ドルという未曾有の景気対策への期待感から再び株式市場が盛り返して為替も円安となっているのですが、週明けの市場動向には一定の注意が必要だと思います。
ところで、ガイトナー財務長官の発表した金融安定化策への失望感から株式市場が反落した際に米国の複数のメディアが具体性にかけるという解説をするのに、Meatless Bone という言葉を使用していました。骨組みだけで肉がない(具体性が無い)という表現ですが、これは昔日本のCMでやっていたBoneless Ham の反対みたいで面白いと思いました。小手先の施策ばかりでベースとなるコンセプトが見えないような時に、Boneless Meat なんて書いたら意味は通じるのでしょうかね。
そう言えば、在米時代に、Spineless Jellyfish という表現に遭遇したことがあります。知人A(米国人)が知人B(日本人)に発した言葉でした。クラゲ(jellyfish)には元々脊椎(spine)は無いのですが、敢えて"骨なし"(spineless)とする事で侮辱の意を強めた表現であった訳ですね。
相場も人間関係も本当に難しいものです。当局と金融市場の関係も然り。G7声明や米国の大型景気対策を金融市場はどういう評価を下すのでしょうか。