2009年5月24日日曜日

USD under consistent attack.

先週は完全にドル安の週でした。テクニカルやモメンタムを見る限りドルの下落はまだ続く可能性が高いのですがドル下落の背景には幾つかの解釈が併走している感があります。

1 投資活動の活発化によるドル安 

これは楽観的な解釈と言う事になりますが、先行き不透明感を嫌気して投資ポートフォリオの現金比率を高めていた投資家が再び世界中の株式市場、商品市場、不動産市場に広範に投資活動を再開した事により一旦現金化(=ドル化=ドル上昇)されていた資金が一斉に移動したことによるドル売りと言う事です。

この動きをサポートする材料としては主に以下の動きがあります。

①VIX指数の低下・・・これは簡単に言えば株式市場のVolatilityであり不安指数なのですが、株式市場が好調だった2003~2007年までは20未満の水準で推移していましたが、サブプライム問題以降水準が上昇し2008年のリーマン破綻以降は50を割る込む事はありませんでした。これが先週は50を割り込んだ事で投資家の投資意欲の回復が加速しました。先々週末の選挙結果を好感してインド株が週初から17%上昇していた事も大きく影響したと思われます。

②Baltic指数の上昇・・・これは物資の移動を数値化した一種の海運指数なのですが、リーマンショック以降1466まで下落していたこの数字が先週は昨年10月以来となる2644まで回復した事で世界的な経済活動回復を印象付けました。

③TEDスプレッドの縮小・・・これは3ケ月物のT-bill金利とLibor金利の差額なのですが、クレジット市場が不調だとLibor金利の上昇からこの数値が拡大します。リーマンショック後の昨年10月はこの差額が450bpを超えていましたが、先週はこれが長期平均の50bpを下回る48bp水準にまで低下しており、常識的な調達コストでお金が経済システムの中を移動し始めたと言う解釈が広がりました。

2 米国売り的なドル安(米国トリプル安シナリオ再燃)

これは特に週の後半に台頭してきたシナリオでもあるのですが、S&P(格付け機関)が英国の格付け見通しを安定的からネガティブに引き下げた事から英国ポンドが売り込まれる動きがありましたが、最終的にこれが双子の赤字を抱える米国の格下げが近いと言う思惑に発展した事から市場は一気に米国売りに動いたと言う展開です。週後半はこれで米債下落(長期金利上昇)、米株売り、米ドル売りが加速しました。

3 インフレーション(ハイパーインフレーション)懸念

これは上記の二つのシナリオとも関係するのですが、これまでは世界経済の修復の為に世界中が将来のインフレリスクを承知で足元の景気後退やデフレーションの芽を摘むべく大胆な金融緩和を行い、経済システムの中に莫大な資金供給を行ってきました。

一旦景気が回復し始めれば加速度的なインフレが発生するので出口政策の舵取りが非常に困難とされる政策に敢えて打って出ざるを得なかった訳ですが、予想外に早くこのシナリオが実現してきたと言う解釈があります。

インフレ=物価上昇=通貨価値下落と言う意味ではどの通貨にも弱味はあるわけですが、最も莫大且つ世界中に大量供給されて来た米ドルに対する売り圧力が急上昇するのはある意味宿命的なものがあります。

今週はいきなり月曜日が海外休場で調整先行との見方もありますが、このドル安のマグニチュードがどういう展開を見せるかが最大の注目点となります。

以下はユーロドルの日次チャートですが、先週分として綺麗な陽線が5本並んでおり、高値を更新して伸びて来た様子が分ると思います。

ドル安待ったなし・・・?   Stay tuned.

2009年5月11日月曜日

Is Inflation raising its ungly head now?


ところで・・・・

株式市場の急回復を見て ⇒ ちょっと楽観的過ぎないのではないか?

商品市場の急回復を見て ⇒ 本当に商品需要は急回復しているのだろうか?

ドル安、円安を見て ⇒ リスク許容度の回復と言うけどホンマかいな?

と言う思いを抱く勢力にとってもう少し受け入れやすいシナリオがあります。それは他ならぬインフレシナリオなのです。

世界的な金融緩和と財政出動は確かに通貨供給量を爆発的に増加させる効果を持ちますのでインフレーションという副作用は不可避であることは間違いなのですが、何せ世界経済は甚大なダメージからの回復に相当な時間を要すると考えられて来たために、先ずは足元のデフレリスクの回避が最優先であり、将来のインフレリスクに関しては未曾有の金融緩和に関する一定の出口政策を議論しておく必要はあるがいずれにしてもまだまだ先の話であるという認識が一般的でした。

しかし、最近の金融市場の動きの殆どはこのインフレシナリオで説明出来てしまいます。確かに長期金利の上昇にしてもドル安、円安にしても株式市場や商品市場の急回復も全てインフレシナリオに即した動きであることは間違いありません。

インフレーションの元では通貨価値が下落して現物資産の価値が上昇する訳ですが、実は歴史的に見てインフレ対策資産として最も有効なアセットは株式です。貴金属でもないし、原油や食物と言った商品でもありません。

私自身も正直最近の市場の動きの背景がインフレシナリオの急騰であるかどうかは良くわかりませんが、少なくとも現象面的にはインフレシナリオの上昇と言うことにしておけばほぼ全てのアセット動向の説明は付いてしまうのも事実です。

デフレ、リセッションというシナリオが急後退して一気にインフレシナリオが台頭するには世の中のダメージの急速な修復が大前提となりますが、実はリスクアセット間の相関の上昇と各アセットのオプション市場で建値されているImplied Volatilityの急低下という現在進行形の現象は世の中のダメージの急速な修復を示唆するものです。

時間軸的にはまだまだ先だと思われていたインフレーションシナリオの再台頭というものも一応頭に入れておきましょう。

2009年5月10日日曜日

A Spring Conundrum 2009 ?

2007年秋に世の中がおかしくなり始めたのが所謂サブプライム問題と言うやつで、2008年は3月にベアスターンズショック、9月にはリーマンショックで金融混乱はある意味でクライマックスに突入しました。最近NHKでも特集番組が組まれていましたがWall街のビジネスモデルの崩壊は我々にとっても極めて大きな出来事でしたし間違いなく将来の歴史の教科書にも相応のスペースが割り当てられることでしょう。

当初は金融経済(金融市場)の混乱が実体経済に影響を及ぼすのに一定の時間差を伴うために日常生活の実感と言う意味でも一般メディアもさほど騒いでいなかった時期がありましたが、経済指標や企業業績の悪化が鮮明となり株価が崩落し始めてからは世の中は大騒ぎとなっていきました。

金融市場が実体経済を先導する形で景気の波が確認される事はよくある事で、特にそれは景気の回復時に顕著です。例えば株式市場は必ずと言って良い位に実体経済に先行して底打ちして上昇に転じるものなのですが、2009年度入りしてからの世界的な株式市場の反発は価格面もさることながらその持続力において既に私が知っている全ての専門家の予想を上回る規模で進行しています。

世界的株式市場の反発を主導する米国のダウとナスダックのSummation Indexも未だ明確な失速の兆候は見せていません。


先週は米銀のストレステストの結果発表や4月の雇用統計の発表がありましたが、内容的に悪材料と解釈しようと思えば出来ないことは無い結果であったにもかかわらず市場は全くNegativeな影響は受けずに全ての材料を消化してしまった感があります。

日経平均も1万円台回復を視野に入れる水準まで戻してきましたし、世界的に株式市場が上値を試す勢いは当面維持される見通しです。

私も含めてですが、株式市場の回復は所詮はベアマーケットラリーでしかないと考えてきた市場参加者も多いことを考えれば、目先は調整局面はあっても大きな反落の可能性は小さいのではないでしょうか。

最悪期は脱したと考える投資家が増えている事、中国をコアとしたアジアや新興国経済の復活が確認されている事、世界各国の積極的な金融緩和と財政出動もあり実体経済の各指標も大きく改善しないまでも底抜け感は払拭されて来た事などで企業体力や投資家のリスク許容度が急速に回復してきたと言う説明が目を引きますが一市民としては嬉しい驚きであり、相応の経験のある一市場参加者としては未だ半信半疑な金融市場の急回復です。

週明けは、とにかく株式市場の動向と為替市場で鮮明となってきたドル安、円安の動き(⇒これもリスク許容度の回復で説明されていますが・・・)から目が離せなくなってきました。