2009年7月26日日曜日

Liquidity Trap & Trap of Liquidity.

経済学における金融政策の章に「流動性の罠」というものがありますが、今の金融市場には別バージョンの「流動性の罠」があります。

過剰流動性はバブルを招きますが、そのバブルが弾けて信用の悪化などから金融システムの中で流動性が停滞し、資金繰り懸念から企業業績や金融機関の経営が悪化するとより多くの流動性を強制注入する事で無理やりにお金を回すというアプローチが本当に機能するのか。

この方法は一時的な効果があることは確かですが、結局は次のバブルの種を撒くだけであるという考え方から「迎え酒」、「ステロイド」、「モルヒネ」などと形容されるのですが過去2年間の金融危機に対処する過剰流動性作戦は非常に有効に機能してきたと思います。

It has been much better than mere so far so good.

ところで過剰流動性は金融市場の在り様にも重要な変化を及ぼします。通常はトレードオフ的に何かが上昇すると何かが下がると言うデコボコ状態で、投資対象の選択こそが非常に重要であったアセット同士の関係が一緒に上下すると言う具合に変化するのです。

そして過剰流動性が市場の買い手サイド(BIDサイド)を押し上げるので需要が供給を上回りそれがアセットバブルを生み出す事にもなります。この動きを読み違えて安易に買われ過ぎ感から売りで入るトレーダーは結局大怪我する訳ですからまさに流動性の罠です。

この過剰流動性の影響で各アセット市場の動向に一貫性が出てくる状況を把握する目的でElliot波動研究の大御所であるロバートプレッチャー氏が考案した云わば「全資産指数」とでも呼ぶべきインデックスがあります。

S&P500Nasdaq、金、原油、CRB指数、不動産、米国10年債、ドルインデックス(逆数)という要素を織り込んだこのインデックスは非常に興味深い動きをしています。

従来はアセット間のトレードオフなどで各市場の動きがバラバラになるのでこのインデックス自体には持続的なトレンドは出難いはずなのですが、以下のチャートのようにGS議長の下で米国が積極的な金融緩和で過剰流動性を供給し始めた98年辺りからは明確なトレンドが形成されています。

最近のRisk-onモードの復活が右端の急上昇ですが、これはまだまだ2008年に崩れたこのインデックスのブルトレンドを修復するには程遠い事が分ります。寧ろ2008年半ばからの急降下に対する調整的な反発と言う段階にも見えるわけです。

グラフの左端の方はジグザグの横ばいになっていますが、これが平常時の状況で98年からは過剰流動性の供給と吸収に合わせてこの全資産インデックスが乱高下している事が分ります。

Risk-onモードが近々壊れる事があるとすれば、意外とそれは為替辺りからなのかもしれませんね。ドルの反発か、クロス円の反落か・・・・・

こういうことを考える事自体、金融市場バージョンの流動性の罠に陥っているのかもしれないですけどね・・・・・

Green and Clean ?

7月も終盤となっていますが、今の金融市場はちょっとユニークな状況にあるようです。

金融市場の状況を把握する時の基本は価格軸と時間軸による分析で、特に価格が高値や安値を更新している時などは明確なトレンドが強く意識される事になります。

一方の時間軸の方は少々ニッチな着眼軸で、「陽線がXXだけ続いたら・・・」、「過去10年のうち8回はY月は陰線になっている」というようなアノマリー的な確率論や過去の統計データや天体の動き等まで取り込んだサイクル(周期)理論のようなものまで多種多様です。

ユニークな状況にあると書いたのは、足元の金融市場はこの皆が注目する価格軸並にニッチな時間軸の方でも注目されていると言う意味なのです。

例えば・・・

  • 過去の主な景気後退時の株価下落は717日前後から。
  • 過去2年間のクロス円もこの時期ピークアウト
  • 著名なサイクル理論が7月最終週~8月初を重要変化日と予想。

等という注目点がありました。

このような状況下で米国を中心に注目度の高い経済指標や企業決算が相次ぎましたが、これまでのところ大筋で予想通りか予想を上回る良好な内容が殆どで、金融市場では慎重論が徐々に後退し、積極的なリスクテイク再開へのバイアスが着実に強まってきました。

● MSCI World Indexが週次ベースで4.6%上昇の1,027.5でクローズ。このIndex1,000を   超えたのは昨年11月以来。

  • ダウが約4%上昇の$9,093でクローズ。1月以来の$9,000回復。

というような動きがありましたが、この他にも日本株を含む世界中の株式市場全体が複数の重要レジスタンスを上抜けし、商品市場も内容にばらつきが目立ちながらも原油価格などが極めて堅調な動きをしています。

1つのチャートで株価代表としてMSCIインデックス、Bricksなど新興国市場インデックス、そしてこれらリスク資産が買われる時に対価として売り込まれるドルインデックス(相関を正にするべく逆数を使用)をプロットすると非常に綺麗な相似形となります。

投資家目線で市場を見るとセンチメントの綱引きはどうやらRisk-onモードにしっかりと傾いてきたという結論になると思います。

投資活動の再加速によりRisk資産上昇、ドル安、円安というのがメインシナリオになり始めているという事ですね。

実際、この動きを止めるには上記の変化候補日が過ぎ去らないうちに何か予想外の新たな材料が出てくる必要があると思われます。

まだ完全にRisk-onモードがコンファームされていないピースの1つが為替市場なのですが、ここでドルと円がしっかり下落するのかどうかも大きな注目材料になりそうです。

2009年7月12日日曜日

All is WELL that ends WELL.


私のような海外や地方から来た人間には会社は社宅と言うものを用意してくれますが、これには年限があり、やがては追い出される事になります。

この2年間ほどの間、特に金融危機と世界景気の減速を受けて日本の不動産市況も大分下がってきた事もあり年初から不動産探しをしていました。

ここ数ヶ月は都内の一部など場所によっては不動産市況は反転している感じですが、大きな流れで見れば今はせいぜい踊り場で、まだ恐らくは底打ちには至っていないように思います。ただ不動産と言うのは流動性の無い市場ですので市況全体が底打ちする時点で売り物件がどれだけ出ているかは全く読めない状況であり、私の場合も社宅の時限的制約もあることから、この度思い切って土地の購入に踏み切りました。

すると・・・

面白い事が起こるものです。先日仲介してくれた不動産屋さんから電話があり、整地する過程で私が購入した土地の地下から埋没した古井戸が発見されたと言う連絡がありました。

お菊さんの物語とか、数年前の何とか言う映画の印象もあり古井戸のイメージはあまり気味の良いものではありませんが、だからと言うわけではないのでしょうがやはり昔の人の営みの跡と言う事で神主さんを呼んできてお祈りをしてから処理をして埋めなおすという処理をしました。

それにしても世の中、予想しない事の連続ですね。金融市場の状況も極度に流動的に見えます。

Things are highly FLUID.

Fluid = 名詞で流動体、形容詞で流動的な  受験生の時にこの単語を覚える時、まさに発音通りに古井戸をイメージして記憶した事を思い出しました。

とにかく井戸(Well)の話なので、WELLに終わりたいものです。

All is well that ends well. 終わりよければ全てよし・・・ですね。

Opportunity or Opposite ?

今回の円高については非常に興味深い側面があります。

過去2年間のように2009年も金融市場が混乱して円高になると言う予想を立てていた勢力はGreen Shootsと言われた「春の芽吹き」的な堅調なアセット市場に押されて最早かつての恐竜のごとく絶滅寸前だった時にこの円高が起きた事に加えて、そもそも本来円高の前提条件と考えられてきたリスク市場の大幅調整と言うものが起きていない事です。

確かに原油価格や穀物あたりの商品市場には頭打ち感が強まっていましたが、株式市場は物凄い粘り腰を見せており、何度かあったピンチを切り抜けて週末の段階でも下落を拒否し続けている状況です。欧米株や日経平均だけではなく、中国やインドなどの新興国市場も一気に数パーセント下げる局面がありましたがその日のうちに大きく反発するなど円高の前提条件は中々再現しないのです。

私個人的にも、やはり過剰流動性というものが存在し続ける限り実体経済と金融経済のGAPは中々埋まらないのではないか、実体経済はBrown Weedsでも金融経済はGreen Shootsという状況が想像以上に長期間並存し得るのではないかと考えるようになっていました。

そんなタイミングで、突然の円高の発生にはあたかも原因を飛び越えて結果が出現したような感覚を覚えます。
 
面白い事に市場参加者が抱いている印象は結構二分しているようです。市場経験の長いベテラン勢は今回の原因不明な執拗な円高に大相場の匂いを感じ始めています。過去の円高にもこういう事が何度かあったと言う事ですね。
 一方で比較的若い世代は冷静で、原因、特に日本経済のファンダメンタルズを考えた時に円上昇を正当化するファクターが見当たらない事を理由に今回の円高は一時的な珍現象と捉える人達が多いようです。

相場という切り口で考えてみると、ファンダメンタルズ的には理解しにくい方向にテクニカル主導のトレンドが出てしまう時があります。ファンダメンタルズ的にはどうかと思うけどチャートは抜けてしまったと言うような状況です。大相場の幾つかはそんな風に始まるのも事実で、そうであればこそそれが継続した時に意外な大相場になるわけですが、そんな時には必ずどこかで正当化のプロセスが訪れます。

つまりテクニカルが先走っても、どこかでファンダメンタルズが追いついてくる、そしてそれを確認して相場が加速度的な展開を見せてトレンドが増幅すると言うプロセスです。

今回で言えば・・・・今回も類似の展開があるとすれば・・・・それはアセット市場の大幅調整やBRICSなど新興国の急減速、或いは米国同様の傷口を上手く隠し続けてきた欧州経済圏の膿が噴出すというあたりでしょうか。

トリガー候補は・・・
13日(月)にユーロ圏でトリシェECB総裁講演
14日(火)に米国で小売売上高とドイツでZEW景況感調査
15日(水)に米国で鉱工業生産やCPI(消費者物価指数)、7月NY連銀製造業景気指数、
ユーロ圏で消費者物価指数
16日(木)に米国で対米証券投資やFOMC議事録、
7月フィラデルフィア連銀製造業景況指数
17日(金)に米国で住宅着工件数、ユーロ圏・5月貿易収支
といったたりでしょうか。

結果が原因を追い越してしまったような現状は、どのような落とし前を見るのでしょうか。

Genie Rides On JPY.

百聞は一見にしかずと言う事になりますが、以下のチャートが示すごとく先週は週央の水曜日に突然円が急騰すると言う動きがありました。

ドル円

AUD円

改めてチャートで確認すると週初から地味な陰線が出ていた事が分りますが、これは従来のレンジ内での動きですので特別なインパクトはありませんでした。水曜日も東京市場では落ち着いたレンジ取引が続き、金融市場は大きなトレンドが出ない夏枯れ相場に突入するのではないかと言う懸念が語られ始めていました。株式市場の不安心理のバロメータであるVIX指数が週初に2008年のリーマンショック以前の水準の水準にまで下落して金融混乱は完全に正常化したと考えられていました。

Things happen when least expected. と言いますが、まさに今回の円高は最も期待されないタイミングで、誰も予測しない形で起こりました。

ドル円は95円を割り込んでも93円~94円ゾーンのサポートが頑強であり、少しテクニカルな話になりますが同水準に設定されていたオプション取引のトリガー要因から来る過剰なガンマ供給に守られており、ドル円の下落リスクは非常に小さいと考えられていました。

(オプションのガンマというのは簡単に言えばバリケードのようなものです。)

水曜日のロンドンFixingと言われる決済フローが出る時間の少し前当りからこのバリケード地帯が陥落したことでこれを頼りに円売りを仕込んできた勢力の撤退フロー(ロスカット)等も巻き込んでドル円は91円80銭まで急落し、翌木曜日の小休止を挟んで金曜日の北米時間には91円77銭mで安値を更新した後、92円40銭近辺まで戻して越週しました。

6月までは金融市場の台風の目は米国の長期金利上昇で、他の市場の多くは長期金利動向によって右往左往している状態でした。

 7月に入り、どうやら台風の目は為替市場に移動して眠れる通貨であった日本円を乱暴に揺り起こしてしまったかのようです。

Financial Genieは、長期金利には飽きたようですが、元の壷の中には戻らずに為替市場で暴れ始めたのではないでしょうか。そしてGenieの目に留まったのは明らかに日本円という事になりそうです。

突然の円の動き・・・・Genieの仕業だとするならば、文字通り円くは収まらないのかもしれませんね。

2009年7月6日月曜日

Colour of Summer

今年も半分経過と言う事で驚いてしまいますが、金融市場の方はここへ来てかなり煮詰まった状態にあると感じています。

第1四半期(1月~3月)は間違いなく世界景気は未だ混乱の最中にあったと言えると思いますが、そこで飛躍的に高まっていたリスク回避モードによって現金化されていた運用資本が第2四半期に入って徐々に、段階的に、そしてある所からは加速度的にリターンを求めて世界中のアセット市場に再流入した事で金融市場は以前振るわない実体経済を置き去りにする形で予想以上の回復を成し遂げました。

金融当局が素晴らしい仕事をしたことは言うまでも無いでしょう。米国の個人投資家のグル的存在で金融危機初期には金融緩和に及び腰だったFRBのバーナンキ議長を公共の電波上で罵倒していたジム・クレイマーは今では同議長の事を救世主と呼ぶほどの変わりようで、先日はバフェット氏もバーナンキ議長とポールソン前財務長官を英雄的な仕事をしたと評価していました。

市場センチは悲観と楽観の間を往来する振り子のようなものですが、3月の時点で極端な資産処分⇒現金化が進行していたことから多くの株式銘柄は極端なUndervalue状態にあり、底が抜けてしまうような金融混乱が回避出来る方に掛けるならば絶好の買い場であったと言えそうです。少なくとも4月~6月の第2四半期には底が抜けるような景気減速は無かったわけですのでリスクを取る価値は十分にあったと言う事になるでしょう。

7月は年の後半戦の開始であり、第3四半期の開始月でもあります。資産市場は著しい回復を遂げて株式市場のVIX指数も通貨オプション市場などのImplied Volatilityも申し合わせたように20089月中旬のリーマンショック発生以前の水準にまで下落してきましたが、はたしてこのまま世の中丸くおさまるのかどうかというのが最大のテーマという事になるでしょう。

これは一部では、Green Shoots vs Brown Weeds という図式となっています。楽観派の春の芽吹き論に対して景気回復懐疑派は「そんなものは春の新芽じゃなくて雑草なのよ」と言っている訳です。この議論が続くような相場になれば金融市場は所謂夏枯れ的な様相を呈していくと思われますが、ある友人がこのどちらとも判断の付かない状況をBrown Shootsと上手い表現を使って表現していました。

我々が見極めるべきはまさに今年の夏の色という事になりそうです。