2009年10月12日月曜日

Still at the mercy of the financial waves.

10月に入り新たな四半期の動向に注目が集まっていますが、各地で予定されていた月初の重要指標やイベントを消化して徐々に絵柄が見えてきた部分もあれば逆に見えかけていた絵が壊される部分も出てきました。全体的な総括としては依然としてBig Trendは出難い状況なのかもしれません。

1 米ドル離れの国際合意

特に先週の為替市場を大きく動かした材料の一つがこれです。The Independent という英国の有力紙(最早そうではないと言う意見もありますが)にアラブ、欧州、日本などが今後の原油取引を米ドル建て以外の方法に移行する方向で非公式に協議中という記事が出たのがキッカケです。これに呼応するようにNYの有力シンクタンクのレポートで欧州金融当局がオバマ政権の強いドル政策へのCommitmentを不安視しており場合によっては何らかの行動も起こす方針であるとの指摘も出されました。

事実先週のECB会合の後で現行の金融政策を維持する旨が確認された後のTrichet総裁の声明にはドルの下落を容認しているように見える米国サイドに対するメッセージとも取れる強いドル政策の維持を求める内容が入っていました。

個人的にも現米政権の強いドル政策へのコミット具合には大きな疑問があります。過去2年間の金融危機で世界経済は新しい時代に入ったと思うのですが、従来どおりの視点から株式市場や債券市場が堅調であれば通貨市場で自国通貨の動向には神経を尖らせないと言うスタンスでは大きな変化を見逃していると思います。

 毎日多くの投資関連資料に目を通しますが、間違いなく米ドルの売り手の上位に来るのは米国人であり米国の企業だと思います。彼らは自国の政府や金融当局が通貨を下落させる政策を取っていると認識しており、大きな資産を保有している、或いは運用している主体ほど資産を米国外に移動させています。米国外というのはドルから外へと言うことでもあり金などの貴金属の購入なども含みます。

 こうした米国の経済主体の動向を把握しているからこそ欧州などが米国当局の姿勢に疑問を持つ訳ですが、その意味では米ドル離れの国際合意の存在の議論以前に米国人の行動が米ドル下落の背景の主因になっていると言うことです。

2 過剰流動性の出口政策

市場を見ていて明らかなのは、実体経済が盛り上がらなくても過剰流動性が存在する限り投資先を求める資金の動きは継続し、商品市場や株式市場の大幅な下落は起こり得ないという気がします。流石に買われすぎだと言う状況になっても価格ではなく時間での調整が主流となっており、価格の下落幅は非常に浅いと言う状況が続いています。

こうなると非常に難しくなるのが過剰流動性が新たなバブルを醸成する前にこれを吸収すると言う所謂出口政策の実施です。これはやり方を間違えると株や商品などの資産市場が一気に崩壊するという事態を招くため、各国の金融当局は大変頭を痛めているというのが現状です。最近のFRB理事の発言を見ても景気回復が確認されれば現行の異常な低金利政策の解除を躊躇しないという内容ばかりですが時間軸に関しては全くのNo ideaという状況であり、正直その程度のことならば私だって言えるというものばかりです。

3 RBAの挑戦

その中で遂に豪州が最初の扉を開けました。先週の政策決定会合で政策金利を0.25%引き上げたのです。早くも市場は11月の連続利上げを織り込んでいますが、主要紙に11月の利上げ幅が0.5%になりそうだとの観測記事も出されて為替市場では豪ドル(AUD)が急騰中です。週後半に発表された雇用統計も予想以上に強い内容でしたので豪州がいち早く出口政策に踏み切ったと言うのは十分正当化出来るのかもしれません。

ところで経済がグローバル化してからは、各国が金融政策の誤謬に苦しんできました。かつての閉鎖経済モデルでは金融引き締めを行えば自国経済内の余剰資金が吸収されるという事になりましたが、グローバル化されたボダーレス経済の中では自国が金融引き締めを行うと金利の上昇を好感した投資資金が世界中から流入してしまい寧ろ自国経済システムへのマネー供給を増加させてしまうと言う事です。同時に利上げ後の高い金利(コスト)で調達された資本は相応の利息や配当を出さなくてはならないのでビジネス投資活動が活発になると言うメリットもあります。低金利下の過剰流動性がビジネス投資よりも金融市場への投資に向かい勝ちなのに比べて金利上昇時にはビジネス投資が活発になると言う傾向を意識しての行動であれば豪州当局の決断は一層評価出来ると思います。RBAも勝負に出たと言う事なのかなと個人的には解釈しています。

同じロジックで日本経済の失われた10年というのは実はゼロ金利政策が問題だったと言う指摘があります。調達コストがゼロに近い状況では資金は滞留するか金融投資の材料にしかならずこれが円キャリートレードという形でグローバル展開されて世界的なアセットバブルの一因となったと言うもので、ゼロ金利を解除して調達コストを適正に上げてやれば過度のマネーゲームを冷やすと共に調達コストの上がった資金は継続的なリターンを求めて動き出し、多くは真面目にビジネス投資に向かった筈だという内容で、一定の心理を突いていると思います。

4 金融市場の秋場所は・・・

足元の押したり引いたりと言う潮目の満ち干き的な動きが継続しそうですが、どこかでそのSWING RANGE的な動きに変化が出てくると思います。順当に考えればアジアや資源国への資金流入が続き、米国のみならず欧州、場合によっては日本も資金の出し手に回ると言う傾向が強まると言うのがメインシナリオになるのでしょうが、現時点で認識されていない新たなファクターの出現によるサブシナリオとして米ドルが大幅復活し、新興国経済が凋むと言う流れも起こり得るでしょう。大型破綻、戦争などあまりポジティブではないファクターと言う事になるので出来れば前者で行きたいところですね。

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