2010年9月26日日曜日

MOF intervention : A Job WELL-DONE leaving FX Market MEDIUM-RARE

9月15日(水)の実に6.5年振りという本邦当局(MOF/BOJ)による円売り介入はその手際と規模感ともに見事な手際だったと思います。

市場は菅政権が民主党代表選における小沢陣営からの「菅政権は円高に無策」という攻撃をかわすためにむしろ代表選の投票前に円売り介入が執行される可能性を警戒していましたが、結局は介入は行われませんでした。流石に民主党は市場介入を党内政局に利用したと野党から批判されかねない事や介入が効果を発揮しなかった時には菅陣営の致命傷になるリスクも大きかったので結果的には党首選までは寧ろ動き難かったという事情もあったようです。

14日(火)には菅陣営の勝利が決まり(予想外の圧勝でしたね・・)、市場は菅陣営の勝利なら円高、債券高、株安という事前シナリオ通りに動き始めました。
円高に関しては15日(水)には遂に83円も割り込んで82.87まで下落して一気に80円を目指すかのような勢いすら出たところで今回の為替介入劇の幕が切って落とされたのでした。

このタイミングは見事だったと思いますが、それ以外にも今回の介入を効果的なものにした要因は複数指摘できます。一部メディアも混乱しているところがあるようですが、日本の場合は為替介入は財務相(MOF)が決断するものであり、日銀(BOJ)はその執行機関でしかありません。今回も当然MOFからBOJに介入指示が出された訳ですが、両者の連携は非常に円滑且つ一枚岩になっていたと思います。
介入は2004年以来で6.5年振りとされていますが、MOFもBOJも所謂”お役所”であり、働いている人々も”お役人”さん達ですので定期的な人事異動により流石に6.5年も経っていれば介入実務の経験者は現場にはいないと言う話は有名になっていました。それが比較的最近の異動では数名の実務経験者が現場に”呼び戻されていた”事が判明していて為替業界では当局の警戒態勢が高まっていると言う認識が広がってはいました。

しかし、9月15日(水)というのは米国で人民元の切上げが遅々として進まないことに業を煮やした議会が中国を為替操作国に認定するかどうかの公聴会が開かれる直前でしたので、ここで介入が実施される可能性は殆ど有り得ないという認識も共有されていたのです。

ドル円が82円台に入ったのはそんな背景があったのですが、それだけに介入断行のタイミングは絶妙で、流石に金融市場には激震が走りました。ドル円は82.87から一直線に85.78まで急騰し、単日で2兆円規模の介入となった事に敬意を払った市場では16日(木)、17(金)に85.94まで円安が進み、ドル円は86円手前で越週することになりました。

So far, so good. 1つの中央銀行の単独介入規模としては一日で2兆円規模というのは歴史的にも間違いなく新記録だそうです。

ただ、ここからがいけません。当局には頭の良い人が多いと思うので、私ごとき一介の投資家が思いも付かないような戦略があるのかもしれませんが、個人的な経験からも先週の沈黙にはやや疑問を感じています。勿論、市場が値持ちしていれば話は別ですが、86円目前で始まった先週は結果的に84円割れ寸前まで円高に戻って越週しており、15日の2兆円規模の介入は何だったんだろうと言う雰囲気に包まれています。

実は金曜日の東京時間に介入かと思わせるドル円の一時的急騰がありましたが、これはほぼ間違いなく市場の勘違いで一部邦銀ネーム(複数と言う説も)がM&A案件がらみで執行した大口の円売り取引を見て市場が勝手に盛り上がったと言う背景だった可能性が高いようです。これは裏を返せばそれだけ市場参加者が”そろそろ第二段があってもおかしくない”と考えていたと言う事であり、実際に相場は84円台まで円高になっていたのでそう思うのも当然だったと言えるでしょう。

今回はECBやFRBなどの援軍が期待できない(協調介入ではない)、単独介入なので、成功させるためのポイントは市場自体を味方に付ける事しかありません。為替市場の重層的な規模感を考えればいかなる当局も、間違っても自分達が市場をコントロールし続けられると言う錯覚は持たない事です。寧ろ市場にメッセージを出して理解させて、そのメッセージを裏書するようなぶれない対応を継続する事で市場はある意味では味方に付けることが出来るはずです。円高による収益圧迫に困っている輸出業者や投資家という実需勢を守りたいのなら、尚更投機筋をこそ味方に付けるべきでしょう。

海外の論調も早くもMOF/BOJのCredibilityが試されていると言う論調が目立ち始めていますが、先週の沈黙が余計にゲームを複雑で難しいものにしてしまったと言っても過言ではないでしょう。

今回の標題のように、初仕事はWELL-DONEでしたが、市場は生焼け状態で期末週に突入です。