普通なら投資家や金融機関が慎重になってお金を引くと言う動きが加速してもよさそうな材料が多かった中でそうならなかったのはやはりOil Moneyへの期待と過信があったのではないでしょうか。更に欧州系の金融機関や政府レベルにも中東外交で米国や日本よりも優位な立場を維持したいと言う煩悩が働いていたのではないでしょうか。フランスを中心として欧州には今や世界経済の中心ともなろうという中国と政治的なわだかまりを解消出来ずにいる国々も多く、中東経済との距離感は地理的なそれ以上に政治的な思惑が働いている事は間違いありません。
今回は危機に陥ったDubaiの政府系運用機関であるDubai World,Nakheelを間違いなく救済するはずであったDubai政府が一転それらの対外債務の返済繰り延べを要求する動きに出た事で世間が梯子を外されたような格好となったことが引き金になっています。
これで急上昇したリスク回避バイアスにより世界中の金融市場が大きな影響を受けています。債券市場は急騰して世界中で金利が低下していますし株式市場からも大きな資金流出が起こり、無敵とも思えた金などの貴金属市場も一時大きく調整する動きがありました。
為替市場の円急騰もその中の1つです。最早90円程度では市場参加者の目も慣れてしまっていたわけですが、先週は88円を割り込んできたところから市場参加者が慌てだした印象で、87円割れからは円安方向の動きを待ちながらヘッジを遅らせてきた輸出業界や機関投資家なども慌てて外貨売りに動くなど非常に危険な状況となりました。所謂「悪い円高」という図式が定着し始めていた訳です。
民主党政権が結局は赤字国債増発を止むなしとする意向を固めたのか、それを正当化する目的とも思えるデフレ宣言を出した後の円高ですのでこれはかなり危険な動きです。デフレ⇒物価低下と通貨上昇という環境下では防衛的な資金還流が加速して更なる円高と経済縮小のスパイラルに陥るリスクが急上昇してしまいます。
ある意味では民主党新政権のドタバタということになるのですが、最悪のタイミングで意味のないデフレ宣言などをするから今度は追い込まれて円高を牽制する発言を繰り返す事になってしまいました。比叡山の荒法師にしか見えない藤井財務相などもかつての円高メリット発言を撤回、デメリットのほうが圧倒的に多いなどと言い出して円上昇の熱を冷ますのに必死になっています。
金曜日には東京市場で84円台まで円高が進行したところから努力の甲斐あって(?)、海外市場では86円台まで相場が戻していますが、この過程には本邦当局の「レートチェック」がったと報道されています。レートチェックというのは定義が難しいのですが、一般的には介入の前段階の可能性のある行為と考えられています。文字通り当局がRate水準をチェックする行為です。
よく考えると面白いのですが、今回の円高騒動はDubai政府が配下の運用機関の債務返済の繰り延べを要求した事から始まって、本邦当局のレートチェックで一旦は沈静化したという流れです。
債務を当初の約定期限に支払わずに、延滞する、遅れて小切手を切ると言う行為は"Late Check"という英語になります。つまりこの騒動はDubaiのLate Checkで始まって日本のRate Checkで落ち着いたという訳です。
相場はふたつの「レートチェック」の間でSWINGしているという事になりますね。