2010年5月9日日曜日

A day for the history books.

仕事柄夜中に電話で起こされる事は珍しくないのですが、通常これには二つのパターンがあります。

1 株や為替などで市場がもしもその水準に到達したら電話をくださいというオーダー(Call order)に基
  づく電話。

2 上記以外でも想定外の事象が発生した時に来る報告電話。

実際には1の場合が殆どですが、先週の木曜日のような”数年に一度”というべき事象が発生した際には2のパターンとなります。当然ですがどちらの場合でもロンドンやニューヨーク拠点の同僚からの電話と言うことになります。

先週の木曜日は床に就くまでの動きは見ていましたし、既に米国株式市場は200ドル程度は下げていることは確認していましたが、ニューヨークの同僚から電話でダウの下げ幅が1000ドル程度まで拡大していると知らされた時は思わず正座してしまいました(笑)。

更にこの日の市場の異常さを物語る話としては、恐らく夜中に貰う電話としては5年振り位に同業他社で働く友人からもほぼ同時に電話を貰いました。

結局その後は寝る訳にも行かず、私は金曜日の始発電車で出社しましたが、東京では少なからぬ人々が始発を待たずに車で夜中のうちに出社していたようです。

さて、株価下落の背景ですが、当初はFat Finger説が有力でした。しかも妙に具体的な話になっていてCITIグループのトレーダーが電子端末上でP&G社の売りオーダーの数量欄でmillionの代わりにbillionという単位間違いをしでかしたために大量の売りが成約してしまったというもっともらしい話になっていました。こういう話が出ると自社株下落要因になる為かCITIグループの対応も迅速で早速社内調査をして該当する事実は全く見つからなかったという否定声明を発表しています。実際の当局の調査でも色々とおかしな事象が発見されており、CITIのトレーダーによるFat Finger説は消えたと言ってよいでしょう。突如雪崩が発生したように不自然な売りを浴びた銘柄は他にも多数見つかっているのですが、噂された様なチョンボがここまで多発・頻発することは極めて不自然ですので私もFat Finger説は間違いだと思います。

Dow▲5.7%、S&P▲6.4%、日経平均▲6.2%、CRBコモディティインデックス▲5.9%、原油▲12.8%。
FXではEURJPY▲6.82%、AUDJPY▲6.58%、GBPJPY▲5.72%、CHFJPY▲5.35%、CADJPY▲5.1%。

これだけ多くの値崩れを見た先週は間違いなく記憶にも記録にも残る週であり、特にエネルギーの集中した木曜日は尚更です。

どうやらその背景はFat FingerではなくAlgorithmトレードという事に落ち着きそうです。Algorithmと一言で括ってよいのかどうか不安な位多種多様なプログラムがあるのですが、最近の株式市場において出来高を伴わない・・・寧ろ出来高が減少しながらの・・・価格上昇という不思議な現象が続いていた背景自体がこのAlgorithmトレードであり、この価格と出来高やモメンタムの不統一(Divergence)を嫌気してHumanトレーダーが売り仕掛けるのを須らく吸収して断続的なショートスクィーズを演出していた感情を持たないAlgorithmというロボット達が突如活動を停止したり、総売りに転じる等の動きをしたというのが真相らしいです。この活動停止や持高の総投げの背景は予め組み込まれていた関数が市場の流動性が一定水準以上に悪化した場合や市場のVolatility(株であればVIX指数でしょうか)が一定す順を上回った場合にそのような指示を出すことになっていたと言うことのようです。バグなどではないということですね。

よく調べてみると、ここ数年毎年出来高増加を続けてきた外国為替市場の取引でもとっくの昔に純粋な銀行間取引は頭打ち状態になっている中で、個人の証拠金取引を中心としたRetailのFX取引と金融機関やヘッジファンドの多くが規模を拡大させ続けてきたAlgorithmアカウントの取引こそが出来高増加の立役者だった事が浮き彫りになってきます。

またこれとは別枠の話になりますが、金曜日に為替専門の人間から聞いた話では大手金融機関の多くがより多くのフロー獲得目的で顧客に展開している自社のFXプラットフォームの多くも先週後半は市場のVolatility上昇を理由に通常の社内で両サイドのフローをマリーやマッチングさせるモードを停止させて直接且つ愚直に市場でカバーを取ると言う緊急モードに変更していたらしいです。一方向への値動きがある程度続いたところで突如こういう普段は直接出てこないアカウントから追撃のフローが出たりして値幅が伸びると言うパターンが散見されていたそうで、こういうところでも人間が自らを補助する役割を担わせるべく開発したフランケンシュタインの暴走に人間が翻弄されると言う事象が頻発していたと言う事のようです。

デリバティブ取引等を対象とした金融規制法案が米議会で議論されてますが、こういうロボットやサイボーグ達はどうするのかという議論が出てくる可能性もゼロではないのかもしれません。

デリバティブ取引にしても、Algorithmにしてもあらゆる金融技術は須らく基本的に市場の流動性を増やす方向の影響を齎してきた物が殆どです。今後は一部の商品や技術の応用に何らかの制限が掛かる方向なのだとすれば、恐らく世の中の動きは流動性の部分喪失による値動きの拡大⇒Volatilityの上昇というベクトルを育て始めているのかもしれないと思えて来ました。TradingからInvestmentの時代になったと言われて久しいのですが、Tradingビジネスが幾分復権すると言う流れなのかもしれません。