先月FRBが公定歩合とFedFundレートを同時に50bp引き下げた時点では当局者の頭の中には次のような二つの大きなシナリオがあったと思われます。
1 好循環シナリオ
FRB利下げ→米ドル下落→米国輸出製品の値下がり→海外の米国製品需要増加 →米企業業績上昇→米国株式市場上昇→米国投資家、家計に正の資産効果→必要に応じてFRB追加利下げ→・・・・
2 悪循環シナリオ
FRB利下げ→米ドル下落→ドル売り加速→ドル建て資産からの資本流出→輸入物価大幅上昇→インフレーション顕在化→市場金利上昇→債券価格、株式市場の下落加速→アジア、新興市場への悪影響→・・・・・
後講釈で、9月のFOMCの利下げを批判する人がいます。
そもそも過剰流動性が諸悪の根源で、いい加減な審査でのサブプライムローンが組まれたり資産バブルが発生していたのに利下げをして更に流動性を供給するのは間違いだと言うロジックですが、私はあの状況下ではFOMCに何もしないと言う選択肢は許されなかったと思っていますし、ましてや諸悪の根源は過剰流動性でした等と言って利上げをする事などあり得なかった筈です。
実際に賭けだったとは言いませんが、如何に利下げ後の展開を上記の好循環に持っていくかという事は非常に大きな課題だったと思います。そしてここまでのところは理想的な流れが実現していると考えられます。
思い切った利下げ断行が市場に好感された結果実現した株式市場と債券市場の上昇は、狙い通りに為替市場のドル安を秩序だったものにして、副作用としてドル安の良い面を際立たせる事に成功しています。
①貿易赤字→7年ぶり低水準へ縮小、②財政赤字→5年ぶり低水準に縮小、③税収→Bush政権下で最高水準、④消費活動の伸び→Bush政権下での最小
ここまでは、双子の赤字にも縮小バイアスのかかる見事な構造改革路線です。
これが続けば文句は無いのでしょうが、今月は大きな試練が二つも控えており、展開次第ではこの好循環のバランスが崩れて悪循環パターンに陥ってしまうリスクも無視出来ません。
先ずは今週末のG7会合です。米国が強いドル政策を維持すると言う姿勢を示すのかどうか、自国通貨上昇に神経質になる欧州がアジア、特に中国人民元と日本円を標的にしたドル下落の負荷の分担要求を強調してくるのかどうか(Burden Sharingという言葉が以前も流行りましたね)。
そして次は月末のFOMC会合です。株式市場が最高値を更新するような状況下で追加利下げをして好循環を確固たる物にするのか、経済指標や資産価格の持ち直しを受けて利下げは一時的なものだったというメッセージを送るのか・・・
9月の利下げ断行の時点でも好循環実現が保障されていなかったように、悪循環シナリオへの転換も何時でも実現可能な状況で二つのイベントを迎える事になりますが、2007年度第4四半期冒頭の10月は年内の相場の動向を決定付けるくらいの重要度を持ちそうです。
Virtuous Circle(好循環)とVicious Circle(悪循環)という二つのLoopが並列する間の狭い路地を歩くようなイメージのある金融市場の沈静化と投資環境の好循環を維持できるかどうか。
主要国の金融当局者たちの手綱さばきに大いに注目したいところです。