2007年10月8日月曜日

ドルの下落は電気の流れの如し

多くの市場参加者の予想(警戒?)通り、金曜日に発表された9月の米国雇用統計は注目された非農業部門就業者数において予想を上回る110千人の増加と言う強い内容となり、且つ4年ぶりの就業者数減少となって大騒ぎとなった前回8月のデータもマイナス4千人からプラス89千人へと実に9万3千人もの大幅上方修正まで発表されるという見事なまでの”なーんちゃって”相場が実現しました。

米国経済が個人消費を大きな原動力としている関係上、どうしても雇用、賃金、住宅価格と言ったデータに注目が集まるのですが、もともとこの雇用統計というデータは、原則毎月第一金曜日に前月の集計を発表することになっており、大雑把に言えば発表時点では60%程度の集計しか行われていないので、必ず次回に発表済みデータの修正を伴います。

選挙に例えれば開票率6割程度で当選確実も出ていないのに、事務所ではドンチャン騒ぎが始まると言う位のいい加減なものなのですが、投資家向けにGartman Letterという市場分析レポートを執筆しているDennis Gartman氏などはずっと以前からこの経済指標の強弱に大きな期待をしてリスクを傾ける事はやめましょうと言うスタンスを貫いているくらいです。

数年前にこの指標で大幅な過去データの修正が行われた時には、一般企業の財務データで同様の事があれば粉飾を疑われるし、市場を混乱させ、投資家に損害を与えたと言う罪で刑務所行きだろうというコメントすら出ていましたが、年内に追加で50bpの利下げを織り込んでいた債券市場も25bpまで織り込み幅を縮小して引けており、金利市場のほうでも今回は相当多くの債権トレーダーが振り回されたことでしょう。

ところで・・・

当然のごとく米ドルは一旦反発しましたが、その波を待っていたかのようなカウンターを喰らい、いくつかの主要通貨に対して直近の最安値を更新して引けています。
 豪ドルに対して18年ぶり安値、カナダドルに対して31年ぶり安値と言う具合ですが、一方で対欧州通貨では横ばい、ドルが素直に上昇できたのは対円とスイスフラン位です。

これは断言しても良いと思うのですが、約一ヶ月前に正しいデータが発表されていたら、その後の相場展開は全く違った物になっていたのは間違いないでしょう。
 FOMCの金融政策は多様な経済データを総合的に判断するものなので一概には言えませんが、少なくとも8月の雇用統計の内容が公定歩合とFFレートの50bpもの同時利下げにと言う判断に果たした役割は小さくなかったはずです。
 そして、そのことも含めて米ドルの下落がこの水準にまで進行していなかったことは間違いないでしょうし、この複雑なMIXED BAGのなかで日本円などは今よりも円高水準にあった可能性も有ります。

今回非常に印象深かったことは何かと言えば、これだけの規模で後からデータが修正されても、既成事実としての市場のこれまでの動きは修復されず、一呼吸置いてドル売りが復活して週の取引を終了していると言うことです。

かつて、理科の授業で不思議に思ったことは無かったでしょうか?
電気と言うのはプラス極からマイナス極に流れるものですが、電気の正体とは何かと言えば電子の流れであり、それは電子がマイナス極からプラス極に流れるものである・・・・・・・

これも、最初から電子と言うものの存在がわかっていれば学問体系は全く違ったものになっていたのでしょうが、最初に電気という概念が出てきて、プラス、マイナスというコンセプトも確立された後に、その電気の研究において電子が発見されて、実はその流れはマイナスからプラスへというそれまでとは全く反対のコンセプトであったわけです。

当時の研究界でどういう議論が有ったのか、あるいは無かったのかは知りませんが、結局は電気がプラスからマイナスに流れると言う既成概念は書き換えられることも、覆されることも無く定着して現在に至っているわけです。

週末の米ドル下落についても、何か類似のものを感じてしまうのですが、金融市場はサイエンスではなくアートの世界ですので、週明け以降には違った動きもありえるのでしょうか?

Stay tuned.