2007年10月28日日曜日

きのこの話

先日、仲のよい後輩からご馳走されてしまいました。

東京に来てから、かつての後輩に奢って貰うのは3度目なのですが、3人とも既に転職して別の会社の幹部となっており、非常に頼もしい限りです。
 3名共に元同僚ですので向こうは当然今の私の収入はほぼ正確に察しが付くわけで、それで時にはご馳走してあげたくなるのなら寂しい限りですが。(苦笑)

で、今回後輩がご馳走してくれたのは、和食の割烹料理だったのですが、キノコを中心とした素材が売り物で、多種多様なキノコを市場で購入するのではなく、定期的に店のスタッフ総出で富士山麓などに”仕入れ”に行くそうです。勿論とても美味且つ健康的な食事となりました。

ところで・・・・

昔からきのこと言うのは何か不思議な存在だと思っていました。

これは冗談ではなく、真剣にInspirationだったと勝手に思っている事があります。

子供の頃に「ハゲとガンを治す方法を発見すればノーベル賞」という事がよく言われていたのですが、私は無意識に、それはキノコだろうと思っていました。

残念ながらハゲにもガンにも特効薬は見つかっていないと思いますが、特に後者の有力候補としてこの10年くらい何種類かのキノコが注目を浴びるようになってきました。

アガリクスというキノコが引き金を引いて、そのβグルカンという物質が注目を浴びるようになり、アガリクスと同等以上にそれを含み、且つプラスアルファの効能もあると言う事からアラビア砂漠特有のキマ岳や日本の舞茸も有名になりました。
 数年前からは、この日本の舞茸の効能が注目されて米国のガン研究・ガン治療の権威であるスローンズケータリングでも採用されるようになっています。

数年前に怖い病気をした私も当初はアガリクス、今では舞茸のカプセルを毎日飲んでいます。舞茸のほうがだいぶ安いからです。

閑話休題

キノコ以上に、とても不思議な、奇妙な話があり、先日NHKで放送されていた特集に釘付けになってしまいました。

かつてフランスにレオナルドダビンチやガリレオガリレイ等と並び称されるポアンカレという多分野に渡る天才がいたのですが、彼も他の天才達と同様に幾つかの”予言”をしており、その中で彼自身も証明出来なかった”ポアンカレ予想”という宇宙全体の形状を予想する一大予想があったそうです。

その後の数学者たちが躍起になって証明を試みますが皆挫折の連続で、遂に100年後にあたる2002年にロシアの天才グレゴリー・ペレルマン博士がこれを証明したという話なのですが、この功績により数学の世界ではノーベル賞以上の価値と権威があると言うフィールズ賞に選ばれながら、同博士は受賞も賞金の百万ドルも辞退したという話です。

ここまでならば、ま~何か考えがあっての事だろうと思うだけなのですが、同博士は更に研究の世界から引退し、その行方すらくらませてしまったというのですからまるで推理小説のような話です。

関係者の話では、かつて快活で冗談の好きな、旧ソ連でも群を抜く天才少年だったペレルマン氏はこのポアンカレ予想の証明に取り掛かった頃から人を避けるようになり、別人のようになってしまったというのです。
 これだけの偉業を成し遂げながら全てを捨てて世捨て人のような生活を始め、今では母親の年金などにも頼りながら、日々山に入ってキノコ狩りをしていると言う話も出ていました。

番組は、謎を謎としてそのまま放映して終わっているのですが、久しぶりに強烈に引き込まれるような内容でした。

数学、物理などの所謂自然科学系の研究は、森羅万象の根底を貫く原理原則の解明にあり、その系統だった秩序の美しさは、大袈裟に言えば神の存在をも感じさせるほどだといっても過言ではなく実は自然科学の研究者が一番聖書の内容を忠実に信じていると言う調査結果もあるほどです。

ベレルマン博士は、遂に我々の誰もが知らない何かを知ってしまい、それが原因で隠遁生活に入ってしまったのではないかという気がして仕方ありません。フィールズ賞とか100万ドルとかが何の意味も持たなくなってしまうような何かを・・・・。 そしてそんな彼が単に貧しい生活の中での食材調達としてと言う事ではなく、実は研究対象としてキノコ狩りをしている・・・なんていう可能性は無いのでしょうか?

とにかくちょっと自分でも勉強してみたくなる話でした。

Sweetfishes were sweet.

先日実家の両親を訪ねた際に、皆で鮎釣りに出かけました。

山麓の川は少し寒かったのですが、3時間弱位は粘ったでしょうか。最終的には5匹の鮎が釣れました。

借りた釣竿を返却しながら少し業者の方と世間話をしたのですが、幾つか印象に残った言葉がありました。私自身は少年時代に少々友人と釣りした程度でそれほど深くのめりこんだ事は無く、釣り好きの人には当たり前の事なのかもしれませんが、「見えている魚は中々釣れません」という言葉は特に印象に残りました。

実際には、多くの釣り人が川原から見えている魚の群れに対して釣り糸を垂れるという行為を繰り返してしまうのですが、完全に無視される事のほうが多く、我家も完全にこのパターンでした。

それに思い返してみれば釣れた5匹の殆どは突然”浮き”が沈み込んで慌てて釣り上げるという予期せぬパターンでつれた事にも気が付きました。

我々は漁師ではなく、週末に家族でレジャーに来ただけですので、見えている魚群、魚影に糸を垂れて一喜一憂しながら魚に翻弄されると言うことで充分楽しめる訳ですが、真剣に魚を釣り上げようと思うなら見えていないスポット、見えにくいスポットを狙うべきで、具体的には滝の落ちる部分や岩場の影のような場所が狙い目となるようです。

魚も意外と賢く、上記のような場所に身を隠して安全を確保した魚の方が餌に食いつく可能性が高く、釣り人から見えるところにいるような魚は安全な居場所を確保するのが先決で、そのような無防備な状態でノーテンキに餌に食いつく可能性は高くないと言うことのようです。

投資でもトレーディングでも基本は確率の勝負です。
最も確実そうなものにBETするというのは王道な訳ですが、時には我々も最も確実そうに見えるものが実際に最も可能性が高い選択なのかどうかを掘り下げて考えて見るという姿勢も必要なのだと考えさせられたような言葉でした。

見えている鮎は中々釣れない。

そんなに甘くないよとでも言うかのごとく、鮎は英語では Sweetfish となります。
日本では鮎と言えば塩焼きですが、塩焼きなのに、Sweetfishとでも覚えましょうか。

仕事も含めて色々な局面で、見えていないけど油断している魚はどこかにいないか、必然のごとく目の前にある物が取るべき選択肢なのかなどをじっくり考えて見ませんか。

このLighthouseでも意外なところに光が当てられたらいいなと思っています。

Between Great Moderation and Grand Demolition

A huge week has come that may enetually break the fine balance between Great Moderation and Grand Demolition.

所謂米国サブプライムローンの延滞率上昇を引き金とした8月の金融市場の大混乱は、実に長期にわたって継続してきた大いなる資本主義の繁栄に対する黄信号的な警鐘だったと思います。
 
その後、当局レベルでも民間レベルでも色々な方策や努力が行われ、その多くは少なくとも短期的な効果を発揮してきたことで金融市場は一定の安定を維持してきました。

一般メディアに出ること、出ないこと・・・・市場の一端を担っていると様々な内部情報、怪情報、楽観論、悲観論が我々の視野や聴覚を駆け抜けていきます。
 世界経済は・・・・・米国経済は・・・・・一度は体調を崩したものの回復に向かっているのか? それとも非常に重たい病状の中で一時的な回復を見せてきただけなのか?そんな二つの対立軸の間で金融市場は揺れ動いてきたのだと思います。

Great Moderation という概念は、春から初夏にかけての単身での東京生活の間にある資格試験を受けようと一念発起した際の試験勉強(?)の中で発見した概念です。
 世界経済のグローバル化が進行した結果、経済活動や投資活動における国境や経済圏の境目を越えた資本移動が活発化して、世界経済全体の構成要素の相互補完、相互依存なども高まっており、最終的には世界レベルでも各国レベルでも景気振幅の幅や周期が小さくなっているというコンセプトです。

実務においても、金融市場の広範なVolatilityの低下は大いなる議論を呼び起こしていましたし、Volatilityの低下(市場が動かないと言うこと)により、価格変動による収益性が低下した分利息や配当による収益を追求する動きが強まる中で極端に積み上がったのが金利差に着目した円キャリートレードであったとも言えます。

経済のGlobalization⇒Great Moderation⇒金融市場のVolatility低下⇒Capital GainからIncome Gainへの比重のシフト⇒Carry Tradeの流行

という流れがあったと思います。

Grand Demolition というのは、大きな意味でGreat Moderationに対する対立軸として思い浮かんだ私の造語なのですが、実際に大いなる金融工学の発展が生み出してきた今問題となっているAsset Back Security 関係や各種レバレッジの根幹となってきたCredit FinancingやDerivative Model、そして多くの格付機関のRating能力などへの信頼が根底から崩壊するような事態ともなれば、今後の金融市場は大混乱の渦に飲み込まれることになり、世界経済も大いに冷え込んでしまうリスクがあると思います。

何がバブル状態だったのかと言えば、実は金融工学そのものであるという話を書いたことがありました。ペーパーアセットから現物資産へという ”紙からモノへ” という資本移動についても紹介したことがありました。
 まさに近代資本主義は、大きな節目を迎えているように思われますが、商品市場では現在勢いのある原油や貴金属等から資本流入の主役が食物、水などにシフトしていく傾向が明らかになっており、まさに世の中は一流企業の株式証券よりも、キャベツや牛肉の権利が子孫に引き継ぐ財産を守ってくれる時代に突入しようとしているのかもしれない訳です。

月末月初を含む今週は、米国だけでも第Ⅲ四半期GDP,雇用統計など目先の市場均衡を破壊して新たな方向感を決定しそうな材料が目立ちます。

Great Moderationの奥深さが確認されるか、Grand Demolitionという逆流が勢いづくのか・・・・・

殆ど飲み会で夜の予定を埋め尽くしてしまったのですが、今週は結構忙しいのではないかと思われます。

米国の友人からは、Indian Summerで半袖モードだと聞いていますが、日本は一気に寒くなってきたようです。海のどちら側にいても体調管理は十分気をつけましょう。

2007年10月23日火曜日

Delicate amvibalence of G7 meeting.

週末に行われたG7会合は非常に注目度の高いものでした。

今回も密室会議の中では相当突っ込んだ議論の応酬が在った物と思われますが、最終的な声明文はある意味で最近のG7会合の中でも最も淡々とした内容だったように感じます。

①世界経済の足腰は依然として健全な強さを維持している。
②ただし短期的には一段と景気が減速する懸念に直面している。
③(特に米国の)現状の住宅市場の低迷は相当期間継続する可能性がある。
④中国の人民元はより速いペースで柔軟に上昇する事が世界経済及び中国の利益となる。

要約してしまえばその程度のものでしょう。

ブラックマンデーの20周年とも重なって、週末の海外市場と週明けのアジア市場でも株式市場が大きく売り込まれる展開となりましたが、G7声明文で率直に表明された景気減速懸念に素直に反応したと言う事でしょう。実際に懸念と危機感のみが表明されて、それに対して各国が協調してどうすると言う部分が抜け落ちたような声明文はある意味で失望感を誘ったとも言えるでしょう。

そんな事は百も承知で市場参加者、世界中の投資家達が懸念を共有する中で先進国代表が会合した結果、そうそうたるメンバーが集まって集中討議をし、出てきた結果としての声明文が、

「う~ん、ちょっと難しいね。しばらくは妙案も無いな~」

と言う内容では株も売られますわ。

一方で為替市場では、プラザ合意の焼き直し的な合意がなされる可能性が指摘される中でドルに下落バイアス、円には上昇バイアスが掛かりながらイベントに突入したわけですが、結果として声明文に言及されたのは人民元についてのみで、予想(期待?)された米ドル、ユーロ、日本円などへの言及は皆無でした。

これは正式な参加国である国の通貨への言及は無く、招待はされているものの正式メンバーでは無い中国の通貨にのみ言及したと言う事であり、非常に淡白な声明文であったと言わざるを得ない結果となりました。
 金曜日のNY市場と週明けの市場では、人民元の身代わりに日本円が上昇して輸出企業の収益圧迫懸念から日本株の下落に拍車がかかると言う悪循環となり、株式市場下落=円高という図式が強く意識される展開となりました。イベントに向けて売り込まれてきた米ドルは、対円以外では持続的な買戻しが入っており、結果として円の強さを際立たせる展開となっています。

個人的は、「なんじゃこれは・・・」 という展開ですが、それ以上にG7会合と言うイベントに対して何か物悲しい感傷をすら抱いてしまいます。
 後輩から届いたメールにG7の無力さを指摘する件があり、私も全く同感でした。そもそも現実問題として世界経済を牽引するのはBRICS、イスラム経済、資源国などであり、所謂G7先進国は最早成熟した兄貴分的な存在に過ぎない中で、自分達だけが集まって意見交換をしても最早世界経済に与える実際的な影響力は限られていると言う事です。

G7のUN化現象とでも言うところでしょうか。世界平和などにおけるUN(国連)の無力さは最早存在自体が象徴的な意味しか持たないという状況ですが、実際的な影響力の低下を自覚して当事者のインセンティブも落ちている事と、組織内が不正や汚職の巣窟と化している事とは無関係ではないでしょう。その意味でUN化傾向を強め始めたG7会合の将来に対しては強い懸念を抱かざるを得ません。

そんな自らの限界を自覚してか、素朴なまでに率直な印象だけを残したG7会合でしたが足元の調整が一段落すれば、中期的に商品市場の上昇バイアス、先進国株式市場の下落バイアス、新興経済圏の株式市場の上昇バイアス、米ドルの下落バイアス、欧州通貨、資源国通貨、エマージング通貨の上昇バイアスなどが継続しそうな流れです。日本円については足元の上昇バイアスが数週間は継続するのではないでしょうか。中長期的な円の大幅上昇を見る向きも少なくないのですが、ここはもう少し分析が必要でしょう。この部分の視点に違いについては今後言及して行こうと思っています。

2007年10月16日火曜日

みなとみらい:港未来:皆と未来

週末に横浜の”みなとみらい”地区に行って見ました。

子供が洋書のある本屋さんに行きたいと言うので色々調べて、幾つか候補がありましたがまだ行ったことが無かったのでここに決めたのでした。

山下公園などには行ったことがありますが、みなとみらい地区というのは遠くから日本一大きいと言う観覧車や三日月型のビルを眺めた事しかなく、あまり期待はしていなかったのですが行って見て驚きました。

なんじゃこりゃ・・・・まるでアメリカじゃない・・・

マクドナルド、ケンタッキーフライドチキンなどはどこにでもありますが、Tiffany,Agatha,GAP,COACHなどが軒を並べるツインタワー(?)内部はまるでNY郊外のモールにいるような錯覚に陥る感じでした。

建物内外もとても綺麗で、通路に小奇麗な出店が並ぶ様はクリスマスシーズンのワールドファイナンシャルセンターを彷彿とさせるものがありました。ビルの感じや通路のオブジェの感じなどもなんとなくニューヨークっぽい感じで、あまり期待していなかっただけにとても嬉しい誤算でした。

目的の有隣堂書店もなかなか良くて洋書も多く、子供もとても気に入ってました。

ポケモンセンターやとなりのトトロコーナー(?)などもあるし、食事をするところも豊富だしで、Amusement parkなどもある事を思えば週末などに家族でちょっと出かける場所として充分及第点をクリアしていると思います。

COACHのバッグなどは米国内の価格の約2倍位という話なので、Tiffanyなんて偉く高いんだろうな・・・と思いながら足を踏み入れると、案の定高く、何かを購入して手続きをしているらしいヤングリッチっぽいカップルがSofarに座りながらふんぞり返っていました。

「俺は今、ここで高価なものを買ったんだぜ」 男の誇らしげな目つきはそう言っているようでしたし、
「私は今、ここでプレゼントを買ってもらって幸せです」 女の目はそう言っているようでした。

ここにいちゃいかん・・・・・

金融市場で磨かれた私の危機意識は沸騰寸前でしたが、私が冷やかしで入店した経緯を考えると、あまりにも直ぐに「出ようぜ」と言うのも気が引けます。妻も色々見ているだけで楽しそうではありますし・・・・

結局、タイミングよく長男が便意を催したので我々はそそくさと店を出る事が出来ました。

頼もしい子供を持ったと、久しぶりに思った瞬間でした。

”みなとみらい”と言うのは、どういう意味なのでしょうか? 横浜だから港未来なのでしょうか。
敢えて駅名などもひらがなにしているのは、"皆と未来”などともかけていると言うことでしょうか。

皆と未来。 Future together.  そんなコンセプトならなかなか素敵ですね。

また行こうっと・・・ 少しずつ、好きな場所が増えてきました。

2007年10月15日月曜日

A tight rope between virtuous and vicious circles.

先月FRBが公定歩合とFedFundレートを同時に50bp引き下げた時点では当局者の頭の中には次のような二つの大きなシナリオがあったと思われます。

1 好循環シナリオ 

FRB利下げ→米ドル下落→米国輸出製品の値下がり→海外の米国製品需要増加 →米企業業績上昇→米国株式市場上昇→米国投資家、家計に正の資産効果→必要に応じてFRB追加利下げ→・・・・

2 悪循環シナリオ

FRB利下げ→米ドル下落→ドル売り加速→ドル建て資産からの資本流出→輸入物価大幅上昇→インフレーション顕在化→市場金利上昇→債券価格、株式市場の下落加速→アジア、新興市場への悪影響→・・・・・

後講釈で、9月のFOMCの利下げを批判する人がいます。
そもそも過剰流動性が諸悪の根源で、いい加減な審査でのサブプライムローンが組まれたり資産バブルが発生していたのに利下げをして更に流動性を供給するのは間違いだと言うロジックですが、私はあの状況下ではFOMCに何もしないと言う選択肢は許されなかったと思っていますし、ましてや諸悪の根源は過剰流動性でした等と言って利上げをする事などあり得なかった筈です。

実際に賭けだったとは言いませんが、如何に利下げ後の展開を上記の好循環に持っていくかという事は非常に大きな課題だったと思います。そしてここまでのところは理想的な流れが実現していると考えられます。

思い切った利下げ断行が市場に好感された結果実現した株式市場と債券市場の上昇は、狙い通りに為替市場のドル安を秩序だったものにして、副作用としてドル安の良い面を際立たせる事に成功しています。

①貿易赤字→7年ぶり低水準へ縮小、②財政赤字→5年ぶり低水準に縮小、③税収→Bush政権下で最高水準、④消費活動の伸び→Bush政権下での最小

ここまでは、双子の赤字にも縮小バイアスのかかる見事な構造改革路線です。

これが続けば文句は無いのでしょうが、今月は大きな試練が二つも控えており、展開次第ではこの好循環のバランスが崩れて悪循環パターンに陥ってしまうリスクも無視出来ません。

先ずは今週末のG7会合です。米国が強いドル政策を維持すると言う姿勢を示すのかどうか、自国通貨上昇に神経質になる欧州がアジア、特に中国人民元と日本円を標的にしたドル下落の負荷の分担要求を強調してくるのかどうか(Burden Sharingという言葉が以前も流行りましたね)。

そして次は月末のFOMC会合です。株式市場が最高値を更新するような状況下で追加利下げをして好循環を確固たる物にするのか、経済指標や資産価格の持ち直しを受けて利下げは一時的なものだったというメッセージを送るのか・・・

9月の利下げ断行の時点でも好循環実現が保障されていなかったように、悪循環シナリオへの転換も何時でも実現可能な状況で二つのイベントを迎える事になりますが、2007年度第4四半期冒頭の10月は年内の相場の動向を決定付けるくらいの重要度を持ちそうです。

Virtuous Circle(好循環)とVicious Circle(悪循環)という二つのLoopが並列する間の狭い路地を歩くようなイメージのある金融市場の沈静化と投資環境の好循環を維持できるかどうか。

主要国の金融当局者たちの手綱さばきに大いに注目したいところです。

2007年10月8日月曜日

Inconvenient TOOTH

久しぶりに電動歯ブラシで歯を磨いた後は、やや歯茎がヒリヒリするような感じでしたが、予想通りとても気持ちよい爽快感が残りました。

どのくらいの間、普通の歯ブラシで歯を磨いていた事でしょう・・・・しかも、おっかなびっくりと・・・

遂に、前歯のインプラント治療が無事に完了しました!

前歯が折れたのはハイスクールの時、昼休みに野球をしていた時でした。3塁に走者がいる状態で私がレフトに浅い犠牲フライを打ち、打球を見ながら一塁方向に走り出した私と、やはり打球を見ながら本塁のカバーに突進してきた一塁手がお互いに相手を見ることなく正面衝突してしまった時でした。

幸いにして土台は残ったので、ここに差し歯を差し込むと言う処置をして、その後何度か差し歯を作り換えましたが、昨年の暮れくらいでしょうか、また差し歯が取れてしまい、作り直せば済むかと思いきや遂に歯茎の奥で土台が割れてしまっていることが判明し、私にはインプラントかブリッジかという選択しか残されていませんでした。

インプラントは保険外、一方でブリッジは保険は適用されるものの健康な両脇の歯を半分ほど切断する事になると言う話でした。確か費用はインプラントが6~7千ドル、保険のきくブリッジは自己負担分は千ドル未満だったように思います。
 私は大いに悩みましたが、泣きながらインプラントを選択しました。いくらなんでも健康な両脇の歯を半分の高さに削り取ってブリッジをかますというのは、あまりにも歯に申し訳ないと思ったのです。

金融技術然りですが、医療技術もどんどん進んでいくものなのだと感じます。
今回のインプラント治療にも幾つかのハードルがありました。先ずは土台の強化についてですが、インプラントを埋め込む骨の部分が不十分な人には、人骨粉や牛骨粉を埋め込んで数ヶ月間かけて周囲の骨と同化させた土台を作りますが、私の場合は部分的に自分の骨を成長させる薬入りの羊膜を埋め込んで土台を成長させました。

6月末に家族を迎えに渡米した際にインプラントの埋め込みを行いましたが、そこから先は日本国内での治療継続を請け負ってくれる歯科医を探す必要がありました。米国で修行した方を紹介されたのですがちょっと通院には無理がある場所だったので、インターネットで必死に探してインプラント治療の実績が豊富なところを探しては照会メールを出していました。

結果的にとてもよい歯科医が見つかり、米国から取り寄せたデータを元に継続治療を完了させてくれたわけです。
 これまで半年以上もの間、仮の歯を貼り付けた状態で、物にかぶりつく事も出来ず、また歯磨きも手動で慎重に行ってきましたが、これで再び電動歯ブラシで豪快且つ爽快な歯磨きが復活できる事になったわけです。

後はこれまた豪快なクレジットカードの引き落とし額にさえ目をつぶれば、爽やかな気分でいられそうな気配です。

My inconvenient tooth was my inconvenient truth which was as inconvenient as the global warming.

10月に入り、日本はすっかり秋の気配が濃厚となってきました。
異常に暑かった夏も過ぎて、エアコン使用頻度が激減しているので、電気代の減少が歯科治療費の一部を捻出してくれる事が期待されます。

こればかりは夏は過ぎても・・・・焼け石に水ですが。

皆さんもくれぐれも歯を大切にしましょう。

Liquidity matters : 流動性についての考察

かつて、”貸し渋り”という言葉がありました。
今でも貸し渋りと言うのはあちこちであるのでしょうが、社会現象のように取り上げられていたのは90年代後半のことだったでしょうか?

バブル後遺症からの脱却が遅れ、未曾有のデフレにあえぐ日本経済において、多くの企業が資金繰りに問題を抱えており、日本の金融機関のバランスシート上には多くの企業に対する不良債権化した貸出しが膨らんでいた、日本中を停滞感が覆い尽くしていた時期です。

起業が必要な資金を調達しやすいように、そして調達の負担が少なくて済むようにする為に当局は最終的にゼロ金利となるまで金利を下げて、且つ量的緩和と言われる手法で金融市場に資金を溢れさせました。(これをジャブジャブにする等と言います)

ところが・・・この流動性が・・・お金の水が・・・・流れない。

これが日本経済長期低迷の多くの要因の中でも最も深刻だった主因の一つでした。

この流動性という”資金の水”を流すものが、今も問題になっているクレジット(信用)と言うものなのですが、簡単に言ってしまえば、返ってくる保証のない貸出し、返ってこないリスクが一定水準以上に高い貸出しは実行出来ないと言う事です。

邦銀の多くは、預金者の預金保護と言う意味合いからもクレジットの低下した取引先への追加融資には慎重になりますが、これが”貸し渋り”として当局、政治、メディアなどから一斉に叩かれたわけです。
 一方では、今抱えている不良債権をどうにかしろと叩かれ、一方では貸し渋りを叩かれると言う当時の邦銀と言うのはフェアに見て少し気の毒な部分もあったと思います。

さて・・・・今欧米において、いやグローバル化が進んでいると言う意味では世界規模で、当時の日本と類似の問題が発生している事は明らかです。その発生の仕方は少し違うのですが、どちらが良いのかは意見の分かれるところかもしれません。

一部で明らかな誤解がありますが、今世界で起きていることは基本的に住宅価格の下落とクレジットの悪化であり、二つの別々の潮流があります。
 米国では、サブプライムローンの延滞率上昇による混乱が引き金でしたが、ここへの投資額が大きかった欧州系金融機関(仏、独)およびその傘下のファンドの問題は米国サブプライム問題の余波と言えます。
 一方で、スペインの単純なバブル崩壊、英国で起きたモゲージレンダー救済や預金解約殺到による取り付け騒ぎ等はスペイン、英国独自の住宅バブル崩壊です。これらはかつての日本型バブル崩壊であり、米国のサブプライム問題とは本来一線を画す性質のものです。(米国のサブプライムには関係なく勝手にこけています)

結果的に多くの企業、金融機関、ヘッジファンドなどが資金繰りに苦労するようになり、事態収拾に向けて当局は潤沢な流動性の供給を継続し、米国では政策金利の引き下げ、他国では予定されていた利上げの凍結等も行ってきました。
 ところが、ここでもクレジットという壁が立ちはだかっており、供給している流動性がそれを必要としている所まで流れていかないと言う問題が起きています。

流動性を供給しているのに、必要な所まで流れていかない・・・・これはかつての日本と全く同様の問題なのです。そしてこれは金融当局は流動性の供給まではコントロール可能ですが、それを動かすクレジットに関しては基本的にコントロールする術が限られていると言う事実を露呈しています。
 
信用創造、信用供与というのは基本的に当局の範疇を超えた民間の経済活動だからです。ここで慎重になってメディアなどから「貸し渋り」と叩かれまくった本邦金融機関に業を煮やして国などが自ら保障制度を立ち上げて中小企業への融資を促すと言う行為もありましたが、その保障制度の驚異的な弁済率(結局借主が返済できずに国が債務を弁済した率)を見れば、ある意味で預金者や株主を抱えた本邦金融機関の判断が残念ながら正しかった事が明白になったのですが、そこにライトを当てるメディアは皆無であり、要するにメディアもそういうレベルでしかないということも同時に露呈しています。

システムのどこかに問題がある場合の、最も安易な対処方法の一つに”総量規制”と言う考え方があり、日本はこれを得意技にしています。つまり、不良債権を増やさないために貸し出し総額に上限を設けてしまうのですが、この縮小均衡的な手法により本来はクレジットに問題のない企業にも貸出しが制限されてしまい経済活動は長期停滞を余儀なくされました。

一方で欧米にはこの考えはあまり無い様で、潤沢な流動性がAvailableになった状況下、クレジットに問題のない企業や投資家たちはこれまでよりも大きな資金を安価に調達出来るようになっています。そして、狩猟民族的なリスクテイカー達はこの機会を最大限に利用して果敢に資金を借り入れ、それを株式市場、エマージング市場に大規模に投資しているのです。

これこそが現在進行形の株式市場、商品市場、エマージング市場の上昇であり、一体誰を助けているのかと言う批判をFRBが受けている背景です。

可愛そうなBernanke議長。私は現時点でも果敢な利下げを行ったFRBの判断は正しかったと絶賛する気持ちを持っています。あの時に、FRBが利下げをして混乱の収集に動かなかったらどうなっていたのかを考えれば、今の状況のほうが数段よいのではないかと考えるからです。

混乱の末に氷河期を招くよりは、一部でバブルが進行しても経済活動、投資活動の火を絶やさないという決断はもっと評価されるべきではないかと思うのです。

You can bring your horse to a river but you cannot force it to take water.

horceとforceで韻を踏むこの表現はまさに至言でしょう。LiquidityとCreditという経済活動のコインの両面の中で金融当局がコントロール可能なのはliquidityサイドのみなのです。

私の意見にも多くの反論が有るでしょう。
いずれにしてもLiquidityの議論と評価は依然、”流動的”なようです。

ドルの下落は電気の流れの如し

多くの市場参加者の予想(警戒?)通り、金曜日に発表された9月の米国雇用統計は注目された非農業部門就業者数において予想を上回る110千人の増加と言う強い内容となり、且つ4年ぶりの就業者数減少となって大騒ぎとなった前回8月のデータもマイナス4千人からプラス89千人へと実に9万3千人もの大幅上方修正まで発表されるという見事なまでの”なーんちゃって”相場が実現しました。

米国経済が個人消費を大きな原動力としている関係上、どうしても雇用、賃金、住宅価格と言ったデータに注目が集まるのですが、もともとこの雇用統計というデータは、原則毎月第一金曜日に前月の集計を発表することになっており、大雑把に言えば発表時点では60%程度の集計しか行われていないので、必ず次回に発表済みデータの修正を伴います。

選挙に例えれば開票率6割程度で当選確実も出ていないのに、事務所ではドンチャン騒ぎが始まると言う位のいい加減なものなのですが、投資家向けにGartman Letterという市場分析レポートを執筆しているDennis Gartman氏などはずっと以前からこの経済指標の強弱に大きな期待をしてリスクを傾ける事はやめましょうと言うスタンスを貫いているくらいです。

数年前にこの指標で大幅な過去データの修正が行われた時には、一般企業の財務データで同様の事があれば粉飾を疑われるし、市場を混乱させ、投資家に損害を与えたと言う罪で刑務所行きだろうというコメントすら出ていましたが、年内に追加で50bpの利下げを織り込んでいた債券市場も25bpまで織り込み幅を縮小して引けており、金利市場のほうでも今回は相当多くの債権トレーダーが振り回されたことでしょう。

ところで・・・

当然のごとく米ドルは一旦反発しましたが、その波を待っていたかのようなカウンターを喰らい、いくつかの主要通貨に対して直近の最安値を更新して引けています。
 豪ドルに対して18年ぶり安値、カナダドルに対して31年ぶり安値と言う具合ですが、一方で対欧州通貨では横ばい、ドルが素直に上昇できたのは対円とスイスフラン位です。

これは断言しても良いと思うのですが、約一ヶ月前に正しいデータが発表されていたら、その後の相場展開は全く違った物になっていたのは間違いないでしょう。
 FOMCの金融政策は多様な経済データを総合的に判断するものなので一概には言えませんが、少なくとも8月の雇用統計の内容が公定歩合とFFレートの50bpもの同時利下げにと言う判断に果たした役割は小さくなかったはずです。
 そして、そのことも含めて米ドルの下落がこの水準にまで進行していなかったことは間違いないでしょうし、この複雑なMIXED BAGのなかで日本円などは今よりも円高水準にあった可能性も有ります。

今回非常に印象深かったことは何かと言えば、これだけの規模で後からデータが修正されても、既成事実としての市場のこれまでの動きは修復されず、一呼吸置いてドル売りが復活して週の取引を終了していると言うことです。

かつて、理科の授業で不思議に思ったことは無かったでしょうか?
電気と言うのはプラス極からマイナス極に流れるものですが、電気の正体とは何かと言えば電子の流れであり、それは電子がマイナス極からプラス極に流れるものである・・・・・・・

これも、最初から電子と言うものの存在がわかっていれば学問体系は全く違ったものになっていたのでしょうが、最初に電気という概念が出てきて、プラス、マイナスというコンセプトも確立された後に、その電気の研究において電子が発見されて、実はその流れはマイナスからプラスへというそれまでとは全く反対のコンセプトであったわけです。

当時の研究界でどういう議論が有ったのか、あるいは無かったのかは知りませんが、結局は電気がプラスからマイナスに流れると言う既成概念は書き換えられることも、覆されることも無く定着して現在に至っているわけです。

週末の米ドル下落についても、何か類似のものを感じてしまうのですが、金融市場はサイエンスではなくアートの世界ですので、週明け以降には違った動きもありえるのでしょうか?

Stay tuned.