先週のドル円は水曜日までは終始100円を目指す動きをしつつ木曜日には特殊要因的な大幅反落による長い陰線を出した一方、週末には米雇用統計の大幅悪化観測を背景とした追撃売りに欧州時間に大きめの下落をした後、北米時間には雇用統計発表後に結構な反発を見せ、結果的に長い下髭と実態部分でも不気味な陽線を残して週の取引を終えています。
2月以降世界中の株式市場の底抜け的な下落に注目が集まりましたが、為替市場の一大イベントだったと言ってよいのが円の評価の暴落だったと思います。
中川金融相の酩酊会見が日本売りのキッカケになったと言う説には組しませんが、少なくともタイミング的には丁度あのころから海外勢の日本経済、日本株、日本円に関する見方が劇的に変化したと言う事は間違いありません。
実際に商売柄わかるのですが、海外のファンド勢などは2月の頭位までは結構な気合を入れた円買いをしていました。ドル円、クロス円をショートにしていたのです。それが90円超えで戦略を解消する動きとなり、92円を超えあたりからは積極的な円売りに転じる勢力が現れ始めたという印象です。
色々な事が言われていました。
中川金融相の失態など日本の政治、金融当局者への失望
G7において世界的Reflation政策の確認と日本の通貨安戦略への回帰が確認されたとする説
サブプライム問題以来、他国比で影響は軽微とされて来た筈の日本経済の落ち込みがむしろ世界中で突出しているという奇妙な(?)事実に世界中が目覚めた。
景気急減速で輸出企業の業容の縮小も激しく、会計年度末に向けた外貨売り円買いのフローが全く増えず、むしろ国内に投資先を見つけられない本邦投資家の資本が国外流出を再開している。
などなど・・・・
実は通貨オプションの市場でも2月半ば辺りから激しくドルプットとドルコールの価格差の縮小が始まり始めていました。これはRisk Reversal Spreadと呼ばれるもので、実需の需給の歪みなどを背景に恒常的に前者が後者よりも高い状態が続いてきましたが、前者の値下がりが主導する形でこの価格差が急縮小しました。
双子の赤字などを背景にいつか米ドルは暴落するだろうと言う金融市場に刷り込まれて来た既成事実的な相場観は、いつかまた95年につけた80円を上回る大円高時代が到来するという予言的な相場観と相まって通貨オプション市場の需給構造を円高ドル安方向に大きく歪めてきましたが、これが短期間で大規模な外科手術が行われたかのごとく変化してしまったのです。
必ずしも相場観を変えたと言うことではないのかもしれませんが、円高ドル安方向に戦略を傾けた非常に大きなポートフォリオを何らかの事情により短期間で清算しなければならない大口プレーヤーがいたように思われます。
少なくとも数年という時間をかけて構築した巨大なポートフォリオをものの数週間で清算するとなると、市場の足元の需給は劇的に変化する事になりますが、まさにそういうレベルの動きがあった訳です。通常は円安に振れる時には短い期間からこのRisk
Reversalの縮小が始まり、ごく短期ではドルコールの方が高くなると言う逆転現象も起きて来ましたが、今回は寧ろ長期ゾーンから暴力的に縮小すると言う感じの動きでしたので、上述のような背景があった事は間違いないのでしょうか。
そんなドル円ですが、1月21日に87円10銭のボトムを付けた後、2月11日に89円70銭で下値を固め、先週の木曜日(3月5日)までにほぼ10円の上昇をして99円69銭をつけた後から少し動きがおかしくなってきました。
市場参加者がいよいよ100円超えかと身構えた所で、いまや銀行間取引の90%以上を占めていると言われている電子ブローキングの業界最大手のプラットフォームが突然の機能停止となり、取引再開後には98円台まで下落していたのです。
金曜日には96円59銭まで続落した後に雇用統計後に98円30銭まで戻して越週していますが、ちょっと相場と言うかトレンドにダメージが残っているように感じています。
週明けから呆気なく上昇軌道が修復されてあっさり100円を越えていく相場になるとは考えにくいような気もするのですが、どうなるでしょうか。
もう少し下を試す場合のメドも89円70銭(2月11日)と99円69銭(3月5日)の38.2%戻しで95円87銭、50%戻しなら94円70銭という程度なのでしょうけど。
とにかく2009年は円にとって真価を問われる試練の年になる可能性が急上昇しています。