米国では、色々なエスニック料理を出すレストランがあり、私はインド料理などにも随分とはまっていました。いったん気に入ると特定の場所に通い続ける傾向のある私はインド料理でも幾つかの店で覚えられるようになり、やがてメニュ-すら出てこなくなった店もありました。いつも同じものを食べていたからです。
その位インド料理が好きだった私は、東京に来てから時折無性にあのインド料理が食べたくなって困っていたのですが、先日会社の先輩にそのことを打ち明けたら彼が知っている新橋にあるインド料理の店に連れて行ってくれました。
ここは、インド人がやっている店で、店に入った瞬間に本物と分かるような雰囲気だったのですが、味も本格的で私は非常に満足しました。
ただ、メニュ-を渡されて勇んで開けてみると、馴染みの料理は全く出ておらず、少し不安になりながら店員さん(インドの方)に、TikkamasalaとかVindalooという米国でいつも食べていた料理を口頭で告げると、ニッコリ笑って持って来てくれました。タ-ジマハ-ルというインドのビ-ルが無かったことを除けばこの店は大変気に入りましたので、今後ちょくちょく通うことになりそうです。
But...........
油断していたのですが、東京に来てからあまり刺激物を食していなかったせいか、翌日私はちょっとお腹を壊して何度かトイレの世話になりました。
そして、そこで良心を試される体験をしたのです。
トイレの個室に居るときに、どうやら隣の隣の個室から会社のメンテナンス係の部署の方々が何かを修理に来ている話し声が聞こえました。
「おい、これやっぱり何か大きめのものが詰まっているぞ」
「そうだな・・・・ これはボ-ルペンか何かじゃないか」
「このままだと溢れるな・・・」
「そうだな、ちょっとあれを取ってきてくれよ、なんだっけ、ええと・・そうプランジャ-」
ここで一人が、プランジャ-という道具を取りに消えたようでしたが、やがて残った一人の携帯電話が鳴り、電波の状態が悪いのか、彼もトイレを出て行ったようで、話し声がどんどん遠ざかっていきました。
その直後、私が個室を出ようとしたそのときでした・・・・・
誰かが戻って来て、”あの”個室に入ったのが分かりました。先ほどまで居たどちらかの人が戻ってきて修理をするのかなと思ったのですが、どうやらその人物は中から鍵を掛けたようでした。どうやら修理の人ではなさそうです。私はすぐに個室を出たのですが、もし教えてあげるのだとすれば当然ですが早いに越したことはありません。
どうしようか・・・・
「このままだと溢れるな・・」 という先ほどまでそこに居た人達の言葉が脳裏によみがえります。
日本で見るニュ-スで、電車の中の暴力や痴漢行為などを他の乗客が見てみぬ振りをして被害者を助けなかったと言う報道を何度か見て強い問題意識を感じていた私は、ここはこの個室の中の人に教えてあげるべきだと言う結論に達するのに大して時間は要しませんでした。
ただ、私がいきなり声をかけるべきか、先ずはドアをノックするべきかで躊躇したその時でした・・・・・
ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、ぷぅ~わ~・・・・ん
ドア一枚隔てた個室の中から、初心者が吹くトランペットのような甲高い音がして、ドアをノック使用としていた私の手も、話し掛けようとしていた私の喉も、凍りついたように動かなくなりました。
やがて2名ほど人が入ってきて一人は小用、一人は大用の個室に消えて行き、私は何事も無かったかのように手を洗ってその場を立ち去りました。
私は電車内の暴力や痴漢行為を止められない人達と同じように、見て見ぬ振りをしてしまったのですが、私の良心を試しに来たかもしれない神様を失望させてしまったような気がして凄く悲しい思いをしました。
あの日、あの後で、何かが起きたのかどうか・・・・・私には分かりません・・・・ただ、なぜかこのことは今でも私の脳裏に蘇り、私に問題提起をしてきます。
良心が試される時・・・・・
それは、最も予期せぬ状況で来るものなのかもしれませんね。
Always stay on your toes, you could be tested at any moment.