犬が尾を振るのではなく、尾が犬を振っていると言う英語表現は主客転等、本末転倒、下克上を表します。
”The tail is wagging the dog.” とか”It is not the dog is wagging its tail but the tail is wagging its dog"などと書かれます。
今、世の中で起きている事を見ているとどうしてもこの言葉が脳裏をよぎります。チェニジアから始まってエジプトに波及し、今もリビア、バーレーン、アルジェリアなどに拡大している民衆の蜂起はSNS革命とかFacebook革命と形容される事が多いのですが、長期独裁政権が続いていたり、独裁者ではなくても特定の一族の支配や特定の政党による一党独裁体制が長期間継続してきたところで民主革命的な潮流が拡大している状況です。
Divide and Conquerという言葉があるように、独裁者は統治対象を分断して征服・統治する事で政権の安泰を図ります。その為に秘密警察や諜報活動が盛んな国々が多い訳ですが、従来はそのような機関が機能してDivide and Conquerというモデルを成り立たせてきた訳ですが、テクノロジーの進歩はある意味予想外であり、Facebookなどにより分断してきた積りの民衆が完全に情報を共有して団結すると言う事態を政権側が気が付くのが相当後手に回ったと言うことが指摘できるのではないでしょうか。
エジプト等でも秘密警察などがインターネットにも入り込んでE-mailなどをチェックする体制だったようですが、Facebook等は個人情報を扱う関係で我々がインターネット上でクレジットカードで買い物をするときのように一旦入力情報が暗号処理されてサーバーに飛ぶなどの過程があるために東京の閲覧能力をバイパスしてしまったと言う事実も指摘されています。まさにテクノロジーの進歩恐るべしとしか言い様の無い事態です。
世の中の仕組みに"主"と"従"があるとして、そこに主の方に情報が集中する、或いは主が情報を管理出来るような情報の非対称性がある間はその仕組みは安定するのですが、そこが怪しくなると途端にそのシステムは不安定化するということだと思います。中東、北アフリカで起きている事はまさに"従"である尻尾の方のネットワークが強大となり、情報の非対称性が逆転してしまったと言う現象なのかもしれません。
最早エジプトのムバラク政権までが唐突な終焉を迎えており、その勢いは止めようも無いと感じられます。暴騰の英語表現を使うとすれば、Connected tailsがBig dogsから主導権を奪ってしまったと言う事になるのではないでしょうか。
チェニジアの動きがエジプトに拡大して行った頃に複数の著名コンサルタント会社や情報ベンダー、一部大手金融機関などが主催する中東情勢に関するConference Callが行われ、主要なTV番組でも専門家が出てきて薀蓄を披露するという催しがありましたが、私の目や耳に触れる限りムバラク政権が倒れるなどと予想した専門家は皆無でした。彼らがボンクラだとは思いませんが、今起きている社会現象はそのくらい当事者たちや専門家の人達ですら想定し得なかったような威力を持っているということなのではないでしょうか。
もしかすると2011年は歴史に残る大きな節目となる年なのかもしれませんね。