2007年6月19日火曜日

Angel's grin:Something beyond devil's whisper

月曜日は市場も静かでいつもより幾分早めにオフィスを出ることが出来ました。もしも午後8時までに帰宅できれば水戸黄門が見れます。
 私は足早に帰路を急ぎ、タイミングよく発車寸前の電車にも飛び乗ることが出来ました。

ある駅で、そのJRから私鉄に乗り換えた時でした。

先ほどの自分のように発車寸前に飛び乗って来た男がいました。長髪、ふけだらけ、汚れた衣服、髭ぼーぼー・・・・・・車内は既に混んでいましたが、彼は私の真横に立ちました。スーツにネクタイ姿の私と彼は座っている人達の目には極端なコントラストを構成していたのではないでしょうか。

私はWalkmanを聞いていたので、横目で彼の仕草を見ていただけですが、彼は私とは反対側の隣に立っていた男性が読んでいた雑誌のグラビアを顔をうずめるように覗き込んだり、座っている乗客の顔を一人ずつ覗き込んだりしていたようです。

インド音楽にはまっていた時のジョージハリソンかオカリナを吹かない宗次郎がしばらく風呂にも入っていないようなイメージの男でした。

二つ目か三つ目の駅に近づいた時でしょうか、やや大きめに電車が揺れた時に、いい加減に吊り輪に掴まっていたこの男がよろめき、丁度そこに運悪く同じようによろめいて来た女性の足が彼の足を踏んでしまったようでした。

「馬鹿野郎、テメー何しやがるんだ!、殺すぞこら」

女性はすぐに謝りましたが、この男はしばらく彼女を毒づいて、彼女のすぐ横に立って威嚇を続けたので車内は極度の緊張に覆われました。

次の停車駅で車両を換える人々が出てきました。座っている乗客は引田天功ショーで催眠術に掛かるサクラのように頭を垂れて、目の前の女性などはそのままメトロノームのように左右に揺れながら距離を取り始めました。ダルマじゃねーんだよ。
 何気に横を見ると今度は横に立っていた女性も横歩きで距離を取り始めていました。蟹かお前は。

問題は、足を踏んでしまった女性が金縛り状態で動けないのかその場に立ちすくんでしまったことでした。真横にいるあの男から怖い顔で見下ろされて顔の表情も引き吊っていました。

彼女が車両を移るなどの行動に出ると思っていた私は、そうすれば私もこの男から離れようと思っていたのですが、これでは完全に私も動けなくなりました。怖くないといえば大嘘になりますが、万が一これ以上の事態となれば彼女を助けなければいけないし、それ以前に私がそこに居ることがある種の抑止力にもなると思ったのです。

可哀想な女性と、変な男と、そのすぐ側にスーツ・ネクタイの私が居て、2メートルくらい空けてまた乗客が居ると言う不思議な情況が3駅くらい続いたでしょうか、幸いにしてタバコが吸いたくなったらしいこの男は、胸のポケットからタバコを取り出すともう一度女性を毒付いて下車していきました。

ドアが閉まり、走り出した電車の窓からホームでタバコを吸うこの男と真正面で目が合い、何故かその瞬間、彼の目が笑ったように感じました。

彼女は大丈夫かしら・・・・・・・・

そう思って左後ろを振り向くと、そこには・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰も居ませんでした。

やっと金縛りが解けて車内を移動したのだと思うのですが、何かとても不思議な体験をしたように思いました。

自分も逃げたほうがよいと言う悪魔の囁きを無視してその場に居続けたことはよしとして、積極的に彼女を助けたわけではないというどこか情けないという気持ちもあり、やや複雑な気持ちで帰宅しました。

Lawsonで買ったおにぎりを食べながら水戸黄門を見ました。里見浩太郎バージョンは初めて見ましたが、ちょっと元気すぎますねあれは。反対に私はもう少し元気でも良いのかもしれません。

悪魔の囁きと天使の微笑を両方垣間見たような夜でした。