2010年4月11日日曜日

China Card.

週末の新聞で、中国の貿易統計が単月データとは言え貿易赤字になったという記事を読みながら中国のしたたかさに思わず唸ってしまいました。誤解と批判を恐れずに言えば、中国の経済統計は多少の操作は間違いなく入っているでしょう。中国経済の勢いや潜在力は本物だと思っていますが、発表される数字の”危うさ”や”胡散臭さ”は時として辻褄の合わない状況を招いてしまい、Jim Chanosのような目利きにとってはかつて見破ったEnronの粉飾決算を髣髴とさせるところがあり所謂China Bearと呼ばれる中国経済懐疑派をも生み出しています。
 
確かに中国で自動車販売数が記録を更新し続けている横でガソリン消費量が落ちているなどのデータはおかしいと思うのが普通ですが、それを言ってしまうとインドなども時価会計ではないし、海外投資家に人気の高いベトナムやカンボジアの企業経営者の過半数は時価会計がどういうものかすら知らないと言うレポートも読んだことがあります。(欧米人の書いたものなのでこれもアジアに対する大いなる誤解かもしれませんが・・)

何はともあれ・・・話を戻せば、世界不均衡の根源が過剰消費と過剰貯蓄の発生であり、後者となる黒字国には関税の引き下げや通貨の切り上げ圧力が掛かり続ける訳です。中国に対する人民元の切り上げ圧力が加速度的に高まっている状況下で、単月だろうと貿易赤字じゃないかというカードは結構な効力を持つことでしょう。

先週は英国Financial Times紙や米のWall Street Journal紙なども度々人民元の切り上げ観測をぶち上げてあたかも近い将来の切り上げを既成事実化しようとするかのような動きを見せていましたが、米ガイトナー財務長官もインド訪問の帰路で予定になかった中国訪問もしており、どうやら米中間で何らかの政治的な握りが行われたと言う観測が急上昇しています。

先週後半の急速なポジション調整も今週行われる正式な米中二国間協議で何かが起こると言う思惑に加えて下手したら週末の間にも何かが発表されるのではないかと言う危惧があった事と無関係ではないと思います。会談前に中国が米国への手土産に小幅な人民元の切り上げでも行うと言う可能性は確かにゼロではないと思います。

欧米から5%程度の切り上げを求められている中で、2%~3%の切り上げに留めて置いて、ついでに貿易赤字のデータを添えておけば追加切り上げの圧力は緩和されることになります。
 中国の交渉カードの使い方は実に巧妙で日本の政治家たちも心して学ぶべき点が多々あります。そもそも最近の米国長期金利上昇の大きな要因の一つが中国が米債入札に参加していなかったことなのですが、これで肝を冷やしたガイトナー長官が中国を為替操作国と認定するよう議員団から圧力が掛かっていた為替報告書の発表時期を3ヶ月延期するという判断をしたことも間違いなく、ガイトナー長官はこの件でも米国内では強い批判を浴びています。

最大の米国債保有国として米国を手玉に取る中国のしたたかさ。今週以降の人民元の動向にも目が離せません。