2010年5月23日日曜日

Simply "PUT"......

それにしても5月は世界中の株式市場が大変な事になっています。上昇・下落の双方に非常に大きな値幅を記録するSWING相場なのですが基調は明らかにベアマーケット入りを示唆していると言わざるを得ません。

米株を中心に見てみましょう。先週の動きです。Dow平均はご覧の通り週初に少しだけ前週比プラス圏にいたものの後はずっとマイナス圏での推移となりました。金曜日に小反発していますが、ここから大きく反発してブル相場に回帰出来る状況とはとても思えません。

ナスダックも全く同じです。

S&P500も相似形ですね。

私が購読している株式関係の投資レポートの一つにPut Strategyと言うものがあります。これは優良銘柄のスクリーニングや押し目で拾う際の目安となる推奨水準の紹介と言う通常のサービスとは一線を画すもので、レポートに掲載されているのは推奨銘柄と売却するPUTオプションの行使価格です。

これは今後も値上がりが見込めるある優良銘柄の株価が現在$100だとすれば、$85あたりを行使価格とするPUTオプションを売却しようと言うものです。オプションの売却と言うのは無限大の損失を招くリスクのある戦略ですが、以下の条件さえそろえばメリットの方が大きいと言う発想です。

1 自分がその銘柄を買いそびれたと思っている事。

2 もう一度何らかの理由で値下がりしたら買いたいと思っている事。

3 そうなるまでの間にも利益を得たいと思っている事。

この3つにYESと答えることが出来るのならば、$85を行使価格とするPUTオプションを売却しておけば、売却時にオプション料が受け取れる、期日までに$85までの値下がりがなければ受け取ったオプション料が利益確定する、もしも値下がりして買い手からオプションを行使されれば$85でありがたくその銘柄株を買えばよい。

と言う事になります。$85に買いオーダーを入れて待っているだけなら株価が現行の$100近辺でうろうろしている間は何も起こりませんし、そのまま値上がりしてしまえば何も残りませんが、このように$85PUTオプションを売却しておけば繰り返し売却益を懐に入れながら値下がりを待つ事が出来るし、値上がりした場合には自分が売却したPUTオプションの価値が下がるので株を持っていなくとも収益が上がると言うからくりです。

2009年の春以降はほぼ完全な市場好調期で、このようPUT売却戦略は機能し続けました。そして当然ですが、この戦略を採択する人も増え、採択した人達はこの戦略の規模を拡大し続けたと言う事も間違いありません。

オプションの講義をする積りはありませんが、オプションの売却は高勝率である反面、82敗や91敗という成績でもトータルで損失を出す事のある危険な戦略です。大抵は上手く逃げ切れる事が多いのですが、こういう戦略を取っている際の最悪シナリオがまさにここ3週間位続いているパニックの連鎖的な相場です。

所謂デルタヘッジと言われる現物ヘッジで、早めに必要な売却数以上の現物売り(デルタのオーバーヘッジ)を被せてしまう事が出来るようなヘッジファンド等はともかく一般投資家のレベルや超長期の年金勘定のようなアカウントでは完全に後手に回るはずです。実際に現時点で自分が売却していたPUTオプションが In the money状態となり(実勢価格がオプションの行使価格を突き抜けている事)、潜在的に持値の悪いロングポジションを抱え込んだ格好の投資家は市場に溢れている可能性があります。今後の市場回復局面ではそうした勢力による「やれやれ売り」が断続的に出てくる事になるはずで、反発局面の上値は抑制され続ける事になるのではないでしょうか。

多くの投資家にとって株式市場は軍資金の貯蔵庫になっており、ここが痛めばどこか他の市場から益出しして穴埋めをする動きも広がるので商品市場や新興国市場への投資も縮小されると言う負の連鎖(Delevering)が断続的に続いていく事になりそうです。

これは市場間、資産間の相関が崩壊し、Volatilityは上昇すると言う図式を意味します。これは2009年とは間逆の展開と言う事になるのですが、そういうリスクシナリオの芽を早めに摘み取っておきたい世界中の金融当局と金融市場のダイナミズムとの駆け引きが今まさに始まったところと言えるのでしょう。

株式市場の動向は本当に心配ですね。大幅に値を下げながらもまだ調整の範囲内(それまでの上昇が急すぎたので)と解釈されている上海市場でも大規模な益出しが不可避と言う事態も想定しておくべきかもしれません。その時に買われるのはGOLDか、米ドルか、日本円か・・・? 現時点では全てのシナリオが並列的に可能性を共有していると言う感じでしょうか。