今の世界の状況は結局日本の失われた10年(20年?)の再現であると言う議論が復活していますが、今の欧州の状況を1992年の英国の状況に例えているレポートも多く見かけます。
1992年、当時の欧州が採用していた通貨システムに参加していた英国は多額の政府債務を抱えながらも参加資格を維持するためにGBPの通貨価値を高く維持するべくあらゆる手段を講じていました。米ドル換算で$50bio規模のGBP買い介入スキームを策定し、海外からの投資資金を呼び込むために金利は10%にまで引き上げられていました。
これに立ち向かったのが当時まだ決して今のような著名人ではなかったジョージソロスなどのヘッジファンド勢でしたが、1992年9月16日には介入資金が底を付いた英国が最後の一手として政策金利を10%から一気に15%にまで引き上げましたが、英国政府が万策尽きたと見た市場はGBPの価値を約半年の間に$2→$1.42まで約30%も暴落させてしまいました。
これで巨額の富を作ったジョージソロスは、一気にその名をとどろかせた訳ですが、これは丁度サブプライム問題において巨額のモーゲージ債の無価値化に賭けて一気にスターダムを駆け上ったジョンポールソンの足跡とよく似ていると言えるでしょう。両者とも初期段階では変わり者扱いされていただけで、結果が全てを正当化したといっても過言ではありません。ポールソンに至っては3年以上は負け犬呼ばわりされていたように思います。
最近では世界中の投資家が瞬時に様々な情報を共有してしまいますし、それ以上にインターネットのお陰で国境を越えた資金移動も簡単に行う事が出来ます。ここでも取り上げた1992年のGBP危機にしても1997年のアジア通貨危機にしても後日の統計によると面白い事がわかっています。キャリートレード全盛時の円安も然りなのですが、ある通貨が暴落や大幅に値下がりする過程の中ではほぼ間違いなく自国民による海外への財産非難、資金逃避の動きが確認できます。92年のGBP危機では英国人の、97年のアジア危機ではアジア人の富裕層を中心とした集団が大量の資金を国外に逃避させる動きがあった事がわかっています。
丁度今も、欧州の人々が大量に欧州外に資金移動を行っていると言う動きが指摘され始めていますが、これは特殊能力で船の沈没を予期、察知したネズミの集団が前もって船から逃避すると言う習性になぞらえて表現される事があります。
European rats are jumping ship.
等という見出しを目にしたりしますが、Jumpという動詞が他動詞として直接shipという目的語を取っていることが判りますね。Jumpといえば跳躍を想起しますが、こういう使い方で ~から逃避するという意味になる事がわかります。どうせなら今ではPIIGSなどと不名誉な呼ばれ方をしているポルトガル、スペインなどかつては世界有数の無敵艦隊で世界を征服するような国々であった事などから、
European rats are jumping once unsinkable ships.
等とやっても良いかもしれません。
またインターネット上での瞬時の国境を越えた資金移動は、世界中のコンピュータの前のマウス(これまたネズミです)の操作によって行われている訳ですので、船から逃避する無数のRatsの動きは世界中のPCの前にある無数のMouseによって操られていると言う面白い状況となっていると言えます。
恐ろしい時代というのか、ありがたい時代と言うのか・・・・
日本政府の財政破綻がどうこう言って海外にオフショア口座を作って資産防衛と称する資金移動、財産移転を進めて来た日本の富裕層も最近の円高で資産の目減りが生じている事になります。こういう資金が本国還流する事になれば一層の円高圧力になるのですが、既にある程度は始まっている可能性の高いこのような動きは、Japanese rats are rushing home,too.と言ったところでしょうか。