ジョージ・ソロスという我々の世界ではカリスマそのものの人物がいます。Quantum Fundを作った人でヘッジファンドの勃興期においてその存在を世に知らしめた人物といってよく、私は駆け出しのころに彼が引き金を引いた欧州通貨危機のお陰で訳もわからずに多額の収益を計上し、自他共に勘違いした結果この世界に長居することになったと言う因縁があります。
東ヨーロッパ出身の彼は決して流暢な英語を話すわけではないので、私は米国滞在中にTVのインタビューや講演会などで彼が話すのを聞きながら最初は少しイメージダウンが否めない感じでした。
ところが・・・どっこい大作。
この人は本当に頭が切れる人です。私もよく頭が切れますが全く別の意味です。とにかく彼が書く文章の格調は高く、内容も時として吸い込まれるような時があります。
最近の金融市場に鑑み、我々が将来のリスクとして頭に入れておくべき話だと思えるものの一つに彼のBoom&Bustの説明があります。
彼は経済を考える時に、実体経済と金融経済を区別して考察することは有益であるとしており、所謂経済活動は前者で起こり、信用の拡大・縮小は後者の話であるとしています。
融資という経済活動は実体経済で起こり、それによる信用創造は金融経済の話ですが、まさにここで二つの経済がリンクします。
活発な経済活動(→実体経済)は、資産価格の上昇と収入増を通して新たな信用創造をもたらします。
創造された信用によって可能になった融資によってさらに経済活動が活発化するとこれが収入増と資産価格の上昇を招いて一層の信用創造につながります。
景気の回復から好景気へという段階ではまさに好循環なのですが、やがて新規融資と資産価格(多くの場合担保価格と置き換えられます)に明確な正の相関関係か確立され、やがて前者の伸びが後者の拡大を支えきれなくなると、片方の失速・縮小がもう片方の失速・縮小を招き、ともに内向きの渦巻きを作って螺旋状に崩壊に向けて加速していく事で一つのBoom&Bustが完結すると言うモデルです。
これは、所謂バブルという物が時間をかけて創出される一方で、最終局面では急速且つ悲惨な終わり方をするというBoom&Bustの非対称な性格をもよく説明できていると思います。
ここで言う”新規貸し出し”と”資産価格”のように本来別々のものが相互依存度を高めながら大きくなって最後は一緒に壊れ去る過程の背景には、異なる両者間の相関の上昇と言う要素があります。
今の金融市場では、Volatilityの低下ばかりにスポットライトが当たりますが、一方で各アセット間の相関係数がかつてないほどに上昇しているという事実があります。
現状は”低Volatility環境”という事ではなくて、”低Volatility+高相関”な環境なのだと言うことを意識していく必要があると思います。
こうなると・・・金融市場は”The Chicken or the Egg"です。全てが原因にも結果にもなりえるのです。
「金が売られたので株が売られた」、「流動性の吸収が資産価格の下落を招いた」、
「資産価格の下落によって流動性が絞られた」、などなど何でもありです。
”The Chicken or the Egg" → 何でもあり と言うならばどうせなら
”The Chicken and the Egg" としてしまえば・・・ 親子丼 になりますね。
こちらのほうがよほど安全なようです。