皮下脂肪というものは、一旦付いてしまうと運動やダイエットなどで燃焼させたり完全に取り去ることは不可能で、痩せた様に見えても実際には脂肪の細胞が圧縮されているだけなのでちょっと油断するとすぐに復活してしまうと言う話を聞いたことがあります。再び太ると言うことではなく、無理に圧縮していたものが復元してしまうと言うことだとしたら所謂リバウンドと言うやつが早いのも当然かとも思えます。
記憶と言うものも同じようなものかもしれません。
先日書いたように今週から立て続けに旧友達との再会を消化していますが、その中で、ちょっとしたきっかけから長年忘却の彼方に封印されていた(?)過去の記憶が湯水のように溢れ出てくるという事を何度も経験しました。
こういうことがあると、驚きと興奮から妙に盛り上がるのですが、やはり自分がこれまでの人生で時間と空間を共有した人々は潜在意識という名前の圧縮メモリーの中に存在し続けるし、私自身も皆の中に居続けるのだと言う思いを強くしました。クッションおじさんのように圧縮されているかもしれませんが。
本日も会うのは98年以来という友人と新橋駅のSL広場で待ち合わせをし、格闘技の会で使用して以来気に入っているFERMOというイタリアンレストランに行きました。
この友人は京都の人で、高校を卒業後はキャバレーやピンクサロンのボーイ等をしていましたが、突然啓示を受けたように覚醒し、米国の大学を出て金融仲介業者となった人です。
米国で出会ったお互いが、新橋で一緒にパスタを食べていると言うのは非常に不思議だと言う話をしながらアルコールが入ってくると、後は蛇口をひねったような思い出の放流状態となりました。
実はこの店、味も雰囲気も良いものの強いて気になる点を上げるとすればテーブル間が狭すぎます。横のテーブルにはアベックがいて完全に二人だけの世界に浸っていたのですが、二人の会話は洋画の恋愛物の吹き替え作業のごときでした。
隣の雰囲気を壊しては申し訳ないと思いながら、我々は当初は上品に振舞いながら、笑っちゃう会話にはお互いに”目”言葉で反応していました。
男 「君と話していると疲れが抜けていくようだ。時を経つのも忘れてしまうね」
(私と友人の目言葉 → おいおい聞いたかい?)
女 「私も何か今夜は子供に戻った気分」
(目言葉 → 子供の顔はそんなにてかってねーだろうが)
女(携帯をチェックして) 「あ、5件も入ってる。X君、Y君からも入ってる」
男 「XやYも電話してくるのか・・・・・・折り返ししたほうがいいんじゃないの?」
女 「・・・・・・・・・・本当はそう思ってないくせに・・?」
(目言葉 → 物凄い駆け引きだ。Bid-Offerが詰まって取引が成立する寸前に似ているじゃん)
と、ま~こういう具合です。
ところがあなた・・・上述のような過去の記憶の津波のような復活が始まってからはアベックへの気遣いは完全に消え去り、私と友人は時空を超えて昔の我々に戻ってしまいました。
私 「そういえばお前、陰金だったよね」
彼 「よー覚えてるなー そんなことこっちも言われて思い出したわ」
私 「一日中かいてたらパンツに血が付いたって言ってたよ」
彼 「いやー痒かったわ。何やったんやろね。陰金は違うと思うわ」
私 「南京虫かもね。確かチャイニーズレストランの二階に居候していただろう」
彼 「そうかも知らんね」
私 「俺、1年ほど独り暮らしだったじゃない」
彼 「はいはいそうね」
私 「お前からその時の軟膏の残りもらったの覚えてる?」
こんな会話も絶対に隣のアベックに聞こえていたはずです。
挙句の果てには、隣のテーブルの白ワインのボトルがクーラー内の氷の関係で斜め上に突き出していたのをトイレの帰りに避け損ね、脇腹を直撃された私は酔いの回ったやや大きめの声で・・・・・・・・・・
OOPS!
とやっちゃいました・・・・・・
チェックを済ませて席を立つ前に、男が身を乗り出すようにして「もう少し飲もうか?」と誘い、女性も頷いていました。二人の指先が少し重なっているようでした。
私と友人も最後はレアチーズケーキまで食べながら、復活して押し寄せる記憶をぶつけ合う楽しい時間をすごしました。
走馬灯・・・・・・そんな言葉を想起しながら、暫し目を閉じた私の指先にも・・・何かが触れたようで目を開くと・・・・・・・勘定書でした。
私 「げ、結構高いじゃん・・・」
彼 「たのみ過ぎよね・・・・」
酔っ払いの反省モードで帰ってきましたが、旧友との再会は、居酒屋あたりが無難かなと思い始めました。
かつてカレンシーデリバティブの世界を共有したこの友人は、今はクレジットデリバティブ市場に居ます。再会ラッシュの友人達は良く考えると今では株式、債券(金利)、為替、クレジット、コモディティと完全に金融市場を網羅していることに気が付きました。
皆がそろえば世界が見える・・・・なんて言い過ぎですが、人の繫がりとは不思議なものですね。近くに居る疎遠な人も、遠くに居る親密な人もたくさん居ませんか?