今週の金融市場は、現象面としては見応えがあり、実務面としては"どっちらけ"と言う展開となりました。
ヘッジファンドや金融機関が保有する米国サブプライム債権へのExposureによる巨額損失がまだまだ露呈しそうだと言う緊張感に加えて、お盆休暇明けで復帰する本邦勢、特に輸出企業によるパニック的な円買いにより週初から円が急騰してそれが世界株安に拍車を掛けるのではないかと言うシナリオを多くの海外勢が共有し、月曜日の東京市場のオープンを待ち構えていました。
でも、そうはならなかったのです。先週の恐慌的な大相場は、今週初から加速するどころか徐々に反転してやがては値幅を拡大したのですが、今週はちょっとしたReversalタイムだったと言えるでしょう。
ドル円で言えば6月の124円14銭の高値から先週111円61銭まで急落していたのですが、今週は木曜日に117円台まで反発、金曜日には一旦115円台まで反落しましたがNY市場で反発し、週の終値(週足といいます)も116円半ばでした。
先週の金曜日にFRBが公定歩合の引き下げを発表してパニック状態にあった金融市場の沈静化に乗り出し、これに呼応して欧米の主要金融機関がDiscountWindow経由で短期資金を調達してFRBの措置の実効性をアピールするなど官民一体となった混乱収拾努力が功を奏したという側面があるのですが、ここで日本勢の果たした役割は全く影の功労者的な隠し味となったと私は感じます。
仮定の議論は最小限に留めるにしても、週初に海外投機筋の思惑通りに本邦輸出勢がパニック的な円買いに走っていたら、実は相当えげつない展開になっていたのではないかと私は思います。
実はこのパニック的な動きは一部の輸出勢からは出ていました。しかも注文通り朝一番での動きだったと思います。恐らくはそういう動きも想定していた邦銀勢は自らの玉も乗せて市場に売り圧力を掛けたのでしょう、週初の円高はちょっとした勢いもあり、この時点では海外投機筋もハイタッチモードに入っていました。
ところが・・・・どっこい大作・・・・・
ここから意気消沈していたはずの本邦投資家が動き出し、呼応するように6月までの円安局面では意気消沈していた輸入税も徐々に活動に動き出したため、これら円売り外貨買いの動きが徐々に市場を反転させる格好となりました。
そしてこの動きが継続する中で、前半は静観していた海外勢が少なくとも短期的なシナリオの変更を余儀なくされた格好で週の後半には彼らが期待していた本邦輸出勢の代わりに慌ててリスク縮小を迫られて市場は株高、円安と言うバイアスを強めたまま週を終えた格好です。
お盆明けの本邦勢の血の匂いを嗅いで戦場の兵士化していた海外勢が、逆に自らの出血を隠しながら戦略的撤退を余儀なくされたと言うところでしょうか。
They smelled their own blood and ran for the nearest hill.
ある場所にはそのように書いておきました。洪水や大雨の時には高台に避難する事が語源と思われる "Run for the hill" という英語表現は、金融市場では想定外の状況となった際や先が全く読めないような時にとにかくポジション、リスク量を縮小すると言う意味で頻繁に使用されます。
別稿でも書こうと思っていますが、海外勢は大きな相場観は全く変えておらず、どこかでまた次の大きな波が来て世界的な株安と大円高が実現すると思っており、今回の撤退は予想以上の調整幅に短期的な撤退を余儀なくされた程度の認識なので、"nearest hill" という表現にして置きました。
このまま当局の思惑と世界中の投資家の希望するとおり事態が収拾していくのか。或いは今週の動きはかつて関ヶ原の合戦で西軍が東軍を大幅に後退させて東軍への寝返りを密約していた小早川秀秋隊が密約の反故をすら検討したような大き目の調整局面でしかないのか・・・・・
いよいよ金融市場のバトルは、注目の秋場所に入る感じでしょうか。どちらにしても荒れそうなので座布団を用意してしっかり観戦しましょう。