2007年8月12日日曜日

SIMPLY PUT : Greenspan Put vs Bernenke Put

プラザ合意、Black Monday,LTCB危機、幾つかのテロや戦争など短期的な不透明感を背景に大きく下落した局面を全て含めて計算しても、米国の株式市場は取引開始以来平均して毎年10%の上昇を実現してきました。
 全財産を株式市場につぎ込んできた米国人がいるとすれば、この人の財産は大雑把に計算すれば追加投資をゼロとしても7年で2倍、14年で4倍、21年で8倍になる計算になります。私自身も米国に行くまでは気が付かなかったことですが、米国にあれだけの金持ちが居る最大の原因はここにあります。別にマイケルジョーダンやマドンナではなくても普通の人々のMillionairが多いのは普通に土地や株を買っていれば資産価格が雪ダルマ式に増えていったからというのが最大の要因であり、個人消費を原動力に繁栄を築いてきた米国経済には批判も多いのですが、ひたすら企業優遇で国民一人一人やサラリーマンは"生かさず殺さず"状態で多くの人々が不動産や株への投資で"しこっている"日本などとの比較においても公平に見て間違いなく評価出来る部分があります。
 個別銘柄で見ても、今や押しも押されぬ長優良銘柄のDellコンピュータを93年当時に1万ドル買っていたら、今ではそれがMillionになっていると言う庶民的なアメリカンドリームもあり、こういうところも実に見事だと思います。

さて・・・・・

今の金融市場は、"Bernanke Putはないのか?"と言う事が一大テーマになってます。FRBのBernenke議長のPUTとは何かというと、これには彼の偉大な前任者であり且つ恐らくは歴史上最も市場から信任されたFRB議長と言ってよいと思われるGreenspan議長時代に、"Greenspan Put"と言うものが存在したと信じられている事から説明する必要があります。

Putとは、Putオプションの事です。少し専門的になりますが、オプション取引には基本的にPutとCallがあります。ある資産に対して価格下落リスクをヘッジするにはPutオプションを購入し、価格上昇リスクをヘッジするにはCallオプションを購入します。 
 そしてさらに一般的なデリバティブ用語を使用すると、オプションとは購入者の資産価値にFloorを設定し、資産価値の下落に歯止めをかけてくれると言う効果があります。

Greenspan議長時代のFRBの金融政策には幾つかの特徴がありましたが、中でも重要なものの1つに強面のインフレファイターに徹する欧州各国の中銀や日銀とは対称的に、Progrowthに徹した金融政策を挙げることが出来ます。
 他の中銀に比べて景気拡大時、資産価格上昇時の利上げには非常に慎重である反面、景気減速時や特に想定外の事象による資産価格急落時などにおける金融緩和には極めて迅速果敢という運営により米株市場を筆頭に資産価格一般にFloorが設定されたような状況が続き、上述のとおりFloorの設定はPutオプションですから投資家心理として、やがて一定以上の価格下落はGreenspan議長が止めてくれるという安心感が醸成されていきました。このGreenspan議長の存在そのものがPutオプションのように考えられた事から、いつの頃からか、"Greenspan Put"と言う言葉が出来たのでした。

Wall Street出身のGreenspan前議長とは違い、学者畑出身のBernenke議長は同じように資産価格をプロテクトしてくれるのかどうかという期待と不安の入り混じった不安定な心理状態に覆いつくされたような米株市場において、最近よく聞かれるのが、"Looking for Bernenke Put"という議論だと言うわけです。

経済も金融市場も表向きはFundamentalsとTechnicalな要因で動きますが、底流まで覗いてしまえばそこにあるのは、人々の欲望と恐怖が渦を巻いているわけですから、実体経済のコントロールは身の凄く難しい事だと思います。恐らくは世界経済及び市場全体が得体の知れないサブプライム問題に揺れ動く現状において、Bernenke議長はその事を痛感しているのではないでしょうか。Putオプションを最も欲しているのは、実は彼なのかもしれません。

元ヘッジファンドマネージャーで今では多くの投資家のGuru的な存在であるJim Cramer氏が、全く利下げに動こうとしないBernenke議長を無能者呼ばわりした絶叫ビデオは先週のYouTubeのアクセス件数トップだったようです。

面白いので是非覗いてみたらいかがでしょうか?
http://www.youtube.com/watch?v=rOVXh4xM-Ww

とにかく金融市場はここ数年で最も難しい局面に来ています。