オバマ政権と議会共和党との債務上限引上げ問題における対立は、実は元々燻っているオバマケアと言う国民皆保険制度の導入問題と表裏一体に絡み合っており、彼等が興じている政治的な駆け引きはあまりにも危険なゲームのように思えます。
オバマケアの議論は良いのですが、よりによって順調な経済回復路線を歩む米国のアキレス腱とも言える財政問題を交渉材料にした結果、世界中が見て見ぬ振りをしてくれて来た米国の財政問題を自ら世界中に突きつける様な事をしてしまったと言う意味で共和党の罪も重いと言う気がしてなりません。
これまではアジア危機、欧州危機と世界の何処かで膿が噴出せば必ず安全と流動性を求めた世界資本は米国に還流してきました。サブプライム問題、リーマンショックと言う足元の火山の噴火でWall Streetが崩壊してもなお米債や米ドルが受益者となったのは米ドルが世界の基軸通貨として認知されてきたからに他なりません。
しかしそれも米銀破綻までです。本丸である米国政府が債務不履行となれば、世界中が大混乱となるのは必定であり、これまで混乱時の受益者であった米債や米ドルが最大の犠牲者となる事も不可避です。
これに関しては、元IMF高官でもあるUCLAのBarry Eichengreen教授も最近のレポートの中で強い警鐘を鳴らしています。世界中の中央銀行、政府系運用機関はもとより民間の金融機関や機関投資家が保有する外貨準備、債券ポートフォリオなどの最大の構成要素が米債であり米ドルである以上、その安全性や流動性が毀損し価値評価も額面割れ状態となった場合には一斉に雪崩のような売り崩しが出て世界の金融システムが崩壊し、それは事実上Globalizationと呼ばれてきた事象の終焉を意味すると言う趣旨です。
Mutual funds that are prohibited by covenant from holding defaulted securities would have to dump their Treasuries in a self-destructive fire sale. Money-market mutual funds, virtually without exception, would “break the buck,” allowing their shares to go to a discount.
(約定で債務不履行状態の証券の保有を禁じられているミューチュアルファンドは自滅的な投売りで米債を手放さざるを得ず、例外なく額面割れ状態となる。)
この太字で対比させた部分が今回の考察点です。
Break the buck = 額面割れ です。
Buckと言うのは昔の価値尺度が語源らしいのですが、米国の日常会話では1ドルを意味します。
Will you give me a buck? で「1ドル奢ってよ」と言う感じです。もともと価値尺度の事なので証券などでは額面の意味となり、実際の価値がそれを下回るのが額面割れと言う事ですね。
米国が債務不履行になれば、米国経済の信用、米債、米ドル、米株の価値が全て毀損してしまいます。それが米ドルの世界の基軸通貨としてのステイタスの終焉にも繋がる訳ですが、その意味では現在の米国の直面するリスクを表現するのにこのBreak the buckと言う表現ほど的確なものは無いかもしれません。業界用語的には額面割れですが、文字通り米ドルを壊すと言う意味だって持ち得ますし、何よりも今問題なのは米国そのものが額面割れのリスクに晒されていると言うことなのですから。
発音でも韻を踏むせいかBreakはMakeという言葉と対を成すことが多く、ここでもMake a buckならMake moneyと言う意味になります。
It is up to them whether to make a buck or break the buck.
と言うのが今の米国の待ったなしの状況ではないでしょうか。